トピックス

【会員レポート】『東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材』 実践例①

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
活動実施日:2025年5月27日
情報提供日:2025年9月5日
連絡先:TEL. 0193-63-6448
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくることが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する162編の小論文の中から選んだ多様な視点の60編の小論文を『教材』(参考資料①参照)とすることで、被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生、あるいは震災を体験していない人々に引き継ぎ、新たな行動へつなげていきたいと考えている。
 今回、岩手県立久慈翔北高校において、介護福祉コース19名(2年生8名、3年生11名)と岩手県立北桜高校介護福祉コース11名(2年生)の「交流学習スクール」、および「いわての復興教育スクール」の一環として行われた震災学習(タイトル:「東日本大震災を経験した高校生たちの思いを継ぐ」)で、初めてこの『教材』を使用した。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】など8編を参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園・幼稚園の年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文として記載したものである。

 震災学習を実施するにあたり、指導しなければならない立場の方から「何をしたら良いか分からない」ということを聞くことがある。また、震災から7年後に、当時高校1年生の生徒が小論文の中で以下のように述べている。
 「(前略)・・小学校の先生が3月11日になると津波の話をするそうですが、経験をしていない子供達や記憶がほとんどない子供達にどのように東日本大震災の事を伝えようか戸惑うらしいです。また、当時内陸の方の小学校に勤務していた先生方も多く、子供達に当時どのような事があったのかを伝える人も少なくなってきているそうです。・・(後略)」。その生徒は続けて、「高校生の私達や中学生が、・・説明したり、その時の気持ちなどを分かりやすく語ったりして、・・」と述べている。
 岩手県では、『岩手の復興教育推進事業』の中で、「岩手の復興教育スクール」と「交流学習スクール」「震災学習列車活用スクール」という形で震災学習・防災教育を実施しているが、予算の確保や実施計画の作成等、指導者の負担が大きいのではないかと懸念される。また、震災学習を指導する側も年齢を重ねていくため、いつか指導できなくなり、震災を体験した子供達も高校を卒業していくため、後輩達に伝えることができなくなっている。
 以上のことから、東日本大震災を体験した子供達の想いや考えが形として残るように、そして「いつでも誰でも簡単に使用できる」ことを常に心がけて『教材』を作成した。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(約45分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発生したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×2コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について約45分間に短縮して参加生徒達に紹介した。そのうえで、授業内容等の「振返りプリント」の作成・掲示・配布や、それらのプリントを参考にした「600字の小論文」の課題の提出を岩手県沿岸の5つの高校で実施したことを説明した。

2) 現役高校生(久慈翔北高校生8名)による小論文(9編)の朗読(約20分間)

 今回、8年前に久慈東高校(久慈翔北高校の前身)で実施した出前授業の際に生徒達に書いてもらった小論文3編を含む『9編』(参考資料②参照)について、久慈翔北高校介護福祉コース2年生の8名に朗読してもらった(1人各1編、1人だけ2編朗読)。

3) ワークショップ(計30名参加) ~ファシリテーター:久慈翔北高校 菅原彩教諭~(約30分間)
ⅰ)朗読してもらった9編の中から1編を各自選び、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?」と「B:選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?」、および「感想」(参考資料③『朗読された小論文の感想』参照)を、別紙用紙①に書き出してもらった。
ⅱ)その用紙をもとに、4~5人のグループごとに、別紙用紙②を使いながら、「これからあなたができることは何ですか?」について話し合ってもらった。
(※ 別紙用紙②では、最初に「クロスロード」を行い話し合いに慣れた後で、「私もこんな体験をした。」、「こんなことをしたい。」、「こんなことをしている。」、「こんな方法もある。」、「能登半島地震、洪水の被災地にこんなことができる。」、等々について意見を出し合う。)
ⅲ) 話し合った内容について、各グループの代表者から短く発表してもらった。

4) 課題の配付

 授業の最後に、別紙用紙③(「原稿用紙」)を配付し、朗読した9編の小論文の中から各自が選んだ1編について、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?(160字以上~200字以内)」と「B:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?(260字以上~300字以内)」について書き、後日提出してもらった。

5) 課題の配付

後日、提出された小論文のうちのいくつかを、選んだ小論文と一緒に掲載したプリントを作成・配付し、参加生徒全員で想いや考えを共有した(参考資料④『想いや考えの共有』参照)。

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 実施した内容の1)「授業内容の紹介」

「東日本大震災」と生徒たちがまだ生まれていない約20年前に発生した「インド洋大津波」を比較して紹介し、2つの自然災害の共通点や相違点を比較検討したことで、防災・減災や復興、国際支援活動等について興味深く聴いてくれていることを感じた。また、インドネシアのマングローブ林と日本の防災林を比較しながら「自然環境を活用した防災・減災」という視点からの防災・減災について紹介することにより、「身近な自然環境」の重要性を理解してもらうことができた。

実施した内容の2)「小論文(9編)の朗読」

声に出して朗読することにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達に、より強く伝わったと思われる。たとえば、当日の震災学習を取材していたNHK盛岡放送局制作の放映番組の中で、朗読した生徒の一人が『言葉ひとつひとつに 想いがちゃんとあるんだなって思いながら読むことで 気持ちをくみ取って読もうと思いました。』と述べている。
 また、子供の頃に実際に東日本大震災を体験した地域の先輩たちの高校時代の想いや考え・感情を、同じ年頃の現役の高校生達が「自分事」として思い浮かべながら朗読することにより、聴く側の生徒達にも強く響いたと思われる。(参考資料③、および⑤(新聞記事)※:『岩手日報』令和7年6月4日付より「岩手日報社の許諾を得て転載しています。」)

実施した内容の3)「ワークショップ」

 9編の小論文の中から自分の心に引っかかった1編を選び、「共感したところ」と「これからできること」を書き出したことで、グループワークにおける発言がスムーズになったと思われる。また、互いの考えや感じたことを話し合い、多様な視点から「自分がこれからできること」を考える良い機会になったと思われる。

 講師の話を聞いて「分かったつもり」になるのではなく、地域の先輩たちの想いや考え・感情を理解したうえで、グループワークの中で互いの考えや感じたことを話し合うことは、より理解を深め、次なる行動へつながるものになると考える。

実施した内容の4)「課題の配付」と5)「想いや考えの共有」

 ワークショップの最後に各グループからの短い発表はあったが、形として残らないと「想いや考えの共有」は難しいと思われる。ワークショップ後に、自分の心に引っかかった1編について自らが書き出した「共感したところ」と「これからできること」、そしてグループワークで話し合うことで気づいた事や閃いた事をまとめて文章にしていく過程が重要である。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 今回の実践からも、朗読するのは現役の高校生、もしくは中学生であることが望ましいと感じた。
 しかしながら、例えばこの『教材』を朗読することが困難な生徒がたくさんいるクラスで実施する場合や、NPO等が一般の参加者を対象に実施する場合等、それが難しい場合が想定される。前者の場合には、朗読ではなく黙読、あるいは教師が朗読してから“実施した内容の4)「課題の配付」と5)「想いや考えの共有」”を実施する方法や、後者の場合には、主催者が朗読してからワークショップを実施する方法でも良いと思われる。
 現在、現役高校生等の朗読を録音しておいた音源を利用することができるように準備し、現場で流すという方法も試してみたいと考えている。

● これからの期待や展望

 東日本大震災の被災地だけではなく、どの地域の誰でも簡単に利用できる『教材』にしたいと考えている。“実施した内容の1)「授業内容の紹介」”を実施しないで、最初から朗読とワークショップを行うことも可能である。また、最初から朗読して、ワークショップなしで“実施した内容の4)「課題の配付」と5)「想いや考えの共有」”を実施することも可能である。
 この『教材』(15編×4セット=60編)は、【体験・生き方】や【体験・支援活動】などのテーマに合わせて必要数の小論文を選ぶことも可能である。あるいは、防災学習や復興学習・支援活動・国際理解・生き方・地域の特性・環境学習などに関する小論文があるので、あるテーマに特化した情報提供やワークショップ等を行ったうえで、適する内容の小論文を選び朗読することも可能である。

 以上のように、この『教材』の利用方法はいろいろと考えられる。共通するのは、「東日本大震災を体験した子供達の想いや考え・感情を知ることができ、知ることにより『自分事』としてどのように行動していくのかを考える場を提供できる」ことである。

 もし、この『教材』(参考資料①)の電子データが欲しい方がいれば、ptf60-j-ogasawara(アット)iwate-ed.jp まで連絡をください。メール添付で(別紙用紙①~③も含めて)提供できます。

 また、【特別セレクト①】(15編)【特別セレクト②】(15編)【体験・支援活動編】(15編)【体験・環境編】(12編)、そしてインド洋大津波に関する「授業内容の紹介」を受けなければ伝わりにくい内容を含む小論文を除いた【東日本大震災関連に限定編】(15編)もあるので、お問い合わせください。

 

 

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。

           

【会員レポート】『3.11 語り継ぐ若き記憶』 -東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材の紹介-

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
活動実施日:2024年3月3日
情報提供日:2024年4月23日
連絡先:TEL. 0193-63-6448
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくることが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する百数十編の小論文を教材とすることで、辛い気持ちを乗り越えて小論文を書いてくれた被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生、あるいは震災を体験していない人々に引き継ぎ、新たな行動へ繋げていきたいと考えている。
 今回、東日本大震災の被災地である岩手県宮古市の「市民交流センター」主催で、2024年3月3日に実施された「市民交流まつり」(参考資料①(チラシ)を参照)の中で、2011年から現在まで行っている自然災害への防災・減災や支援活動等に関する教育実践を市民の方々に紹介する機会を得たので、その様子を報告する。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】など7編を参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園・幼稚園の年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文として記載したものである。それらを6つのテーマ別に30編にまとめることで、被災地の子供達の想いや考えを次世代や体験していない人達に分かりやすく継続して伝えていけるように教材化した。また、3年前より『短縮版』(2023年10月4日付けの【会員レポート】など参照)を作成し、使いやすいように工夫して実践している。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(35分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発生したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×3コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について約35分間に短縮して市民に紹介した。そのうえで、授業内容や生徒の感想・質問等を掲載した20枚前後の「振返りプリント」の作成と掲示・配布、そのプリントを参考にした「約600字の小論文」の課題の提出、等の教育実践の方法について説明した。

2) 現役高校生(宮古高校放送部の生徒4名)による小論文(15編)の朗読(約30分間)

 教材として作成した『短縮版』を一部改変した「特別編集版(15編)」(参考資料②)を、宮古高校放送部の女子生徒4名に代わるがわる朗読してもらった(参考資料③(新聞記事)を参照)。
 3月3日に実施されたこのイベント以前に取材・掲載された新聞記事によると、朗読した生徒達は、「(13年前、4才だった4人は揺れや避難した経験はかすかに覚えているが、)災害のおそろしさは理解していなかった」、「いつ、どんな災害があるか分からない。経験者の話を多くの人に伝え、守れる命が増えればいい」、「高校生が話すことに意味があると思う。後世にどうつないでいけばいいか考えながら読みたい」等と述べている。
参考資料③(新聞記事):『岩手日報』令和6年3月3日付より「岩手日報社の許諾を得て転載しています。」)
 後日、朗読をしてくれた宮古高校放送部の生徒4名に、「朗読をしてみて感じたことや想ったこと等を教えてください。」、「イベントに参加して、参考になったことや感想、あるいは実施方法等へのアドバイスがあれば記入してください。」という2つの質問に回答してもらった(参考資料④(朗読した生徒の感想など)を参照)。

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 実施した内容の1)(授業内容の紹介)については、「東日本大震災」と多くの方が具体的内容を忘れていると思われる約20年前に発生した「インド洋大津波」を比較して紹介し、2つの自然災害の共通点や相違点を比較検討したことで、防災・減災教育や国際支援活動について興味深く聴いてくれていることを感じた。また、インドネシアのマングローブ林と日本の防災林を比較しながら「自然環境を活用した防災・減災」という視点からの防災・減災教育や環境教育について紹介することにより、「身近な自然環境」の重要性を理解してもらうことができた。
 実施した内容の2)(小論文(15編)の朗読)については、胸にせまるものがあり、とても感動的であった。子供の頃に実際に東日本大震災を体験した地域の先輩たちの高校時代の想いや考えを、同じ年頃の現役の生徒達が「自分事」として思い浮かべながら朗読する今回の試みは、地域に根ざした防災・減災教育においてとても有意義なものであった。特に、朗読してくれた宮古高校放送部の4名の生徒の感想等から、小論文を黙読するだけではなく声に出して朗読することの重要性を強く感じた。これは、朗読を聴く側にとっても同様の効果があったと思われる。
 司会の「市民交流センター」の担当者からは、「子供達の視点が抜けている面があった。子供達の想いや考えを大切にしていくための契機になったのではないか。」というコメントを頂いた。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 当初は、上記『実施した内容』の次に、教材としての取り組み方法を参加者にワークショップ形式で体験してもらう企画であったが、会場の設備や時間的問題で今回は実施できなかった。別の機会にぜひ実施したいと考えている。

● これからの期待や展望

 被災地だけではなく、どの地域の誰でも活用できる教材にしていきたいと考えているので、実施した内容の1)(授業内容の紹介)が実施されなくても活用できる教材の作成を考えている。具体的には、「アチェの状況」や「マングローブの役割」に関する授業内容を受けての小論文もあるので、「授業内容の紹介」がなければ経緯が理解しにくい小論文を除いた『短縮版』を作成したい。加えて、ワークショップ形式の進行手順や使用する資料の作成も行いたいと考えている。
 また、実施した内容の2)(小論文(15編)の朗読)について、小学校(高学年向け)や中学校・高等学校等で実施する場合、その学校の児童・生徒の代表に朗読してもらうことが「自分事」として想い・考える契機になると思われる。しかしながら、それが難しい場合や学校以外でこの教材を使用する場合には、現役高校生などの朗読を録音しておいた音源を利用することができるように準備したい。

※参考資料①(チラシ)について、「宮古市市民交流センター」より転載の許諾をいただいています。

 

 

 

 

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。

           

【会員レポート】ぼうさいNURIE(オンライン防災自作のぬりえ活動)・プラ板で避難リュック作り(ワークショップ)

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:岡村 智樹(樹実防災株式会社)会員
活動実施日:2023年11月26日
情報提供日:2023年12月20日

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

Facebookグループで活動しています「オンライン防災」のなかで、今年《ぼうさいNURIE》という企画を発足させ9月1日のプレスリリースを皮切りに各所で展開しています。子供たちに「怖がらせない防災」と、子どもがぬり絵をしながら保護者と一緒に防災のお話を直接するコンセプトで進んでいます。私事、準備期間から取り組みをしています。7月頃から静岡県内(静岡市、藤枝市、富士市、御殿場市)のマルシェやお祭り会場で開催し、通常防災イベントで実施するイメージがある活動を、もっと身近に防災を感じてもらうようにしています。今回の報告は、11月26日に岐阜県安八町で開催した「100人のお産展」の会場で実施した様子の写真を貼ります。
良く聞くのが「防災訓練すら来てくれない!」との話に、何気ない日常空間で防災を感じるきっかけがないのか模索をしています。

● 計画や準備で気をつけたこと

お産の写真展と防災を掛け合わせるのには、私は全く違和感はありませんでした。何故なら昨年度静岡市で実施した「お産の写真展~生きる」を2日間開催し、赤ちゃん目線の防災ミニ講座を実施した結果、多くの反響がありました。その話を聞いた岐阜県の仲間が、私の想いを岐阜県に引き継いだ形になっています。そこに私が今年から展開していますNURIEを入れた感覚でして、ほとんど計画も気を付けることもありませんでした。ゆういつ言えるのは、怖がらせない、自然体で防災の話になるのみです。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

① ぼうさいNURIE(オンライン防災自作のぬりえ活動)

② プラ板で避難リュック作り(ワークショップ)

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

各自治体など防災イベントを実施しています。

私たちは、普段、制服に身を包んだ方々と会うと、距離を感じてしまいますが 、来場された3家族が消防隊員のご家族だったことで、いろいろお話が出来て親近感を得ることが出来ました。

消防隊員の方のご家族と一緒にぬりえをしたことが、その家族の防災意識を高める効果があったこと。どう災害に向き合って良いか分からない、奥様がとても喜ぶ姿は、これまで、市民と消防職員との間に感じていた隔たりを壊し良い経験となりました。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

《ぼうさいNURIE》は、NURIE大使という役を設けています。私はその一人なのですが、今まで記載した内容で展開できる人材の育成が課題と感じています。ただぬりえをするのではなく、様々な災害経験を持ちながら、「生きるための防災」を真剣に考えて頂ける方です。こども一人ひとりとその家族と向き合い、学校防災では出来ない「防災教育」になる事を望んでいます。

 

● これからの期待や展望

今年度の「ぼうさいこくたい2023」で大掛かりに仕掛けた結果、今では各種防災講座で会う方にNURIEを見せると10人に1人程度の割合で見たことあるとか聞いたことあるというお返事をいただきます。(先日の内閣府主催避難生活支援研修会場でデーター取り・・・参加者40人中5人が該当)
今年度末にかけて千葉県のららぽーとイベント会場や、愛知県蒲郡市の防災イベント会場で展開します。
現在は、宮城、栃木、東京、神奈川、静岡、愛知、岐阜、京都、広島、愛媛、熊本、沖縄の各都府県で3月の練習から現在まで24回開催しています。もっと多くの地域でそして海外にも展開したいと考えています。

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいております。

 

【会員レポート】東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材の実施例(その4) -アンケート結果をふまえて-

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古水産高等学校) 会員
活動実施日:2023年5月~2023年10月
情報提供日:2023年9月28日
連絡先:TEL. 0193-62-5550
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくることが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する百数十編の小論文を教材とすることで、辛い気持ちを乗り越えて小論文を書いてくれた被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生に引き継ぎ、新たな行動へ繋げていきたいと考えている。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文で記載したものである。それらを6つのテーマ別に30編にまとめることで、被災地の子供達の想いや考えを次世代や体験していない人達に分かりやすく継続して伝えていけるように教材化した。また、昨年度より『短縮版』(実践例も含めて40ページ)を作成し、使いやすいように工夫した。
 今回、昨年度より勤務している宮古水産高校の1年生(震災当時2~3才)を対象に、理科の科目である「科学と人間生活」の中で『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルの授業を3回に分けて実施したうえで、以下のような取り組みを行った。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 授業内で実施したアンケート結果について

 1回目の授業を始める前に、次のようなアンケートを実施した。
 『現在のあなたは、「東日本大震災」や「津波」・「防災」というような言葉について、どのような意識をもっていますか。次の中から1つを選び〇をしなさい。
①考えたくない ②あまり考えたくない ③いろいろと考えたい ④関心が無い 』
 その結果を、生徒に配布した『振返りプリント』で以下のように掲載した。

 

▼『振返りプリント』の一例
 ・・・(前略)・・・。
 結果は下のグラフのようになりました。(参考として、山田高校における2016年度の結果と宮古北高校における2020年度の結果も掲載します。)
 宮古水産高校と他の2校(山田高校、宮古北高校)におけるアンケート対象者は、人数や学年構成・震災後の年数・被災状況等々が異なるので単純に比較はできませんが、一見して分かるのは、いずれの高校でも③の『いろいろと考えたい』が一番多いことです(山田高校:約45%、宮古北高校:約53%、宮古水産高校1年生:49%)。しかし、どの高校・どの年代でも「考えたくない」「あまり考えたくない」という人も少なからずいるので、震災によるストレスを感じている人も多いと言えます。宮古水産高校1年生に特徴的な点は「関心が無い」人が多いことでしょうか。これは宮水以外でも年々増えているようで、小さい頃から「震災」「震災」と言われ続けてきて嫌になっている人がいるのかも知れません。

 

2) 『短縮版』の資料の配布

 『短縮版』の中の「セレクト1」(15編×4セット、セレクト1~4の1つ)を夏休み前に配布し、課題として取り組んでもらった。前回(2023年2月24日付けの【会員レポート】参照)と同様に、冊子(目次も含めて7ページ(両面印刷で4枚))にして配布した(PDF版の資料①を参照)。

 15編それぞれについては、内容面から4つの分類を示し、生徒たちが1つの小論文を選びやすいように工夫した。4つの分類とは、『体験』(被災体験と伝承)、『環境』(身近な自然環境を活用した防災・減災)、『支援』(国際支援・国際交流)、『生き方』(これから私ができること)、とした。

 

3) 提出された課題をまとめたものを掲示・配布

 夏休み明けに提出された課題をまとめたものについてカラー版を各教室に掲示し、白黒版を1・2年生全員に配布したPDF版の資料②を参照)。

昨年度、3回の授業を実施した2年生についても、夏休み課題とした。)

 

▼ 実施結果の一例 

令和5年度 理科の夏休み課題(小論文)

 今回、2011年から2021年までの11年間に、5つの高校で収集した小論文の中から15編を選びました。そして、それらの小論文を皆さんに読んでもらった上で、1つの小論文を選んで、以下のA~Cの課題についてあなたの想いや考えを書いてもらいました。

 :あなたの選んだ小論文の筆者は、どういう想いでこの文章を書いたと思いますか? 
 あなたが共感したのはどういう所ですか? 
 :あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることを述べなさい。

 なお、小論文を1つ選ぶ時の参考として、15編の小論文を内容別に、4つに分類しています。

 『体験』:被災体験と伝承
 『環境』:身近な自然環境を活用した防災・減災
 『支援』:国際支援・国際交流
 『生き方』:これから私ができること

 提出してもらった中から、「そんな想いもあるんだ」や「そういう視点もあるんだ」という内容の代表的な小論文を、皆さんにもお知らせします。(選んだ小論文も添付

 

(1)(令和5年度宮古水産高校1年 Mさん)(震災当時、3才)

A:「筆者は、どういう想いでこの文章を書いたのか?」
 筆者は、東日本大震災が起こったことはとても悲しい出来事だけど、自分の思い出の中で生きていてほしいという考えや、自分の手で町の魅力を伝えたいという考えなど、自分自身ができる気持ちや行動が大切だという想い。

B:「あなたが共感したのはどういう所ですか?」
 私が共感したのは、「たとえ亡くなっていたとしても、私の思い出の中で生きていてほしい」という所です。この文章は、生きている人全員に言える言葉だと思ったし、自分もその気持ちを大切にしないといけないと思ったから。

C:「選んだ小論文を読み、これからあなたができることは?」
 小論文を読み、共感した部分でもある『自分の思い出の中でずっと生きてほしい』から、亡くなった人のことを思い出すことが、これから私ができることの1つである。
 また、自分の命を自分で守ることができるための訓練などを積極的に行ったり、防災リュック等を準備する必要があると思う。自分の命を守れなければ、人の命を守ることはできないと思うので、できることは何でもしたい。そして、1人でも多くの命に助かってほしい。
 これから先、何が起こるか分からないけど、親からもらった命に感謝して、一日一日後悔のないように自分らしさを忘れずに生きてゆきたい。

選んだ小論文(震災当時、小1)『東日本大震災から十年目の今、私ができること』 体験・生き方

 東日本大震災から10年が経とうとしています。私は小学生の時、未来の田老を題材にした劇をしました。中学生の時は、「田老を語る会」をしました。「田老を語る会」では、被害状況や当時の様子・教訓などを、津波を経験したことのない人に伝えました。私ができることは、考えて、伝えていくことです。「田老を語る会」は、現在の中学生も行っています。私はそれをこれからも続けていってほしいと思います。
 私は震災で家族を2人亡くしました。当時まだ小学校1年生だった私は、そのことがよく理解できずにいました。ずっと2人の帰りを待っていました。そのことを思い出して泣くことが時々あります。亡くなった人のことを思い出すことも私にできることの1つです。たとえ亡くなっていたとしても、私の思い出の中で生きていてほしいと思うのです。
 私は絵を描くことが好きです。昔から絵で好きなものを表現することが好きでした。私はいつか、もっと絵を描く技術を上げて綺麗な田老の海を描きたいと思っています。現在の田老はお店は建ってきましたが、まだ人が少ないと思います。田老の魅力を知り、それをたくさんの人に広めてほしいと思います。私も自分の絵で田老の魅力を伝えられるように、田老の事をより好きになりたいです。

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 理科の科目である「科学と人間生活」の中で『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルの授業を3回に分けて実施したことで、震災当時2~3才だった生徒達の震災記憶の呼び覚ましと震災に関する新たな視点を提供することができた。また、授業に関する『振返りプリント』(全21枚)のカラー版を教室に掲示し、白黒版を生徒に配布することにより、震災被害の事実やさまざまな防災・減災の手法等を再確認してもらうことができた。
 さらに、教材化した『短縮版』の資料を元に、自分達と同年代の頃の地域の先輩達が大人とは違う視点から感じた想いや考えを知ることにより、自らの体験や学んだ知識と合わせ、自らの想いや考えを発展させることができた。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 上記『実施した内容』について、対象者である宮古水産高校の1年生は、震災当時保育園・幼稚園入園前(2~3才)であったので、震災の記憶はほとんどないと考えられる。その後の復旧・復興時の体験や小中学校での学びがあったとは思うが、『▼振返りプリント』の一例を見て分かるように、震災記憶の風化は年月の経過と共に避けられないことであるのかも知れない。

● これからの期待や展望

 1回目の授業実施前(下左のグラフ)と『インド洋大津波と東日本大震災の比較』に関する3回の授業実施後(下右のグラフ)を比較すると、「③いろいろと考えたい」の比率が増加し、「④関心が無い・無回答」の比率が減少している。

 震災記憶の風化は、前述のように大きな課題である。しかしながら、震災被害の事実を知り、さまざまな防災・減災の手法を知り、さらに震災を体験した高校生たちの想いや考えを知ることで、震災記憶を継続していくことが可能であると思われる。
 今後、教材化した資料を各地の中学・高校の「総合的な学習(探究)の時間」やNPOのワークショップ等でより多くの人に活用してもらうことにより、南海トラフ大地震をはじめとする自然災害が想定されている地域だけではなく、想定されていない地域も含めたさまざまな地域における防災・減災教育や復興教育等に寄与していきたいと考えている。 

 

 

● 実践中の写真

           

【会員レポート】東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材の実施例(その3) -『短縮版』の活用-

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古水産高等学校) 会員
活動実施日:2022年12月~2023年1月
情報提供日:2023年2月15日
連絡先:TEL. 0193-62-5550
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくことが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する百数十編の小論文を教材とすることで、辛い気持ちを乗り越えて小論文を書いてくれた被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生に引き継ぎ、新たな行動へ繋げていきたいと考えている。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文で記載したものである。それらを6つのテーマ別に30編にまとめることで、被災地の子供達の想いや考えを次世代や体験していない人達に分かりやすく継続して伝えていけるように教材化した。
 今回、上記資料は情報量が多すぎる(120ページ)ため使いにくいところがあったので、『短縮版』(実践例も含めて40ページ)を作成し、現在勤務している宮古水産高校の1・2年生に理科の冬休み課題として取り組んでもらった。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『短縮版』の資料の配布

 前回までは6つのテーマのうちから1つのテーマを選び、小論文30編を生徒に配布していたが、今回は半分の15編(目次も含めて7ページ(両面印刷で4枚))にして配布した。また、15編それぞれについて内容面から4つの分類を示し、生徒たちが1つの小論文を選びやすいように工夫した。
 4つの分類とは、『体験』(被災体験と伝承)、『環境』(身近な自然環境を活用した防災・減災)、『支援』(国際支援・国際交流)、『生き方』(これから私ができること)、とした(PDF版の資料を参照)。
 なお、今回使用した15編の他に、15編×3セット、合わせて4セット(全て内容が異なる計60編)の資料を準備し、在学中に少なくても4回、長期休業中の課題として活用できるようにした。

2)提出された課題をまとめたものを掲示・配布

 冬休み明けに提出された課題をまとめたものについてカラー版を各教室に掲示し、白黒版を1・2年生全員に配布した(PDF版の資料を参照)。

 

▼ 実施結果の一例 

令和4年度 理科の夏休み課題(小論文)

 今回、2011年から2021年までの11年間に、4つの高校で収集した小論文の中から15編を選びました。そして、それらの小論文を皆さんに読んでもらった上で、1つの小論文を選んで、以下のA~Cの課題についてあなたの想いや考えを書いてもらいました。

 :あなたの選んだ小論文の筆者は、どういう想いでこの文章を書いたと思いますか? 
 あなたが共感したのはどういう所ですか? 
 :あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることを述べなさい。

 なお、小論文を1つ選ぶ時の参考として、15編の小論文を内容別に、4つに分類しています。

 『体験』:被災体験と伝承
 『環境』:身近な自然環境を活用した防災・減災
 『支援』:国際支援・国際交流
 『生き方』:これから私ができること

 提出してもらった中から、「そんな想いもあるんだ」や「そういう視点もあるんだ」という内容の代表的な小論文を、皆さんにもお知らせします。(選んだ小論文も添付

 

(1)(令和4年度宮古水産高校2年 Aさん)(震災当時、保育園年中)

A:「筆者は、どういう想いでこの文章を書いたのか?」
 今後、いつ災害が起きても大丈夫なように、自分の経験した事を伝えていくことが大切だという想いで、筆者はこの文章を書いたと思います。

B:「あなたが共感したのはどういう所ですか?」
 私も重茂出身で、とてもこの文章に共感しました。震災前から小学生がやっていた劇の「かがやく海の重茂に」をやっていたから犠牲者が少なくて済んだんじゃないかというのは、私も共感できました。

C:「選んだ小論文を読み、これからあなたができることは?」
 私も震災を5歳の頃に経験したことがあります。その時は、何も分からない状態だったし、どうすれば良いか分からなくてとても怖い思いをした覚えがあります。その当時の私でも震災はすごく恐ろしいものだと分かるくらい怖かったです。
 あの時は、たくさんの支援に助けられたのを覚えています。多くの地域のたくさんの方から支援物資などを貰い、すごく嬉しかったのを今でも覚えています。私の住んでいる町は海がとても近くにあり、漁師がたくさんいる町で、震災の時はみんなで助け合って乗り越えました。私も誰かの役に立てるような人材になっていきたいと思います。

 

選んだ小論文(震災当時、中2)『3.11から四年目の今、私ができること』    体験・生き方

 私は、非常に海が近い小さな集落に住んでいました。しかし、東日本大震災によってこの集落は全滅してしまい、現在も仮設住宅で生活しています。震災後、その集落は災害危険区域に指定され、家を建ててはいけないことになっています。再び同じような被害を受けないための対策の一つです。この地域は、明治三陸大津波や昭和三陸大津波でも多くの被害を受けました。このことを後世に伝えるために先人は、津波到達地点を示した石碑と、二度と多くの犠牲者をださないように「此処より下に家を建てるな」と書かれた石碑を後世に残してくれました。この石碑については、これからも伝える必要があると思います。また、小学校で1年おきに行われる、昭和三陸大津波をテーマとし、当時の様子を台本にした全校表現劇「かがやく海の重茂に」もずっと伝えていくべきだと思います。私たちは、この劇のおかげで早いうちから過去にどのようなことがあったのか分かり、津波の恐ろしさを理解することができました。犠牲者が少なかったのは、これが理由であるかもしれません。
 私は先人がしてきたように、後世へ自分が体験したこと全てを伝えていきたいと思います。二度と犠牲者を出さないために。震災後に建てられた石碑にはこのように記されています。
 『後世への訓戒 大地震の後には津波が来る とにかく高い所に逃げろ 住宅は津浪浸水線より高い所に建てろ 命はてんでんこ』

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 東日本大震災に対して、自分達と同年代の頃の先輩達が、大人とは違う視点から感じた想いや考えを知ることで、自らの体験や学んだ知識と合わせ、自らの想いや考えを発展させることができたと思われる。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 上記『実施した内容』について、対象者である宮古水産高校の生徒達は、震災当時保育園年中・年少であったので、幼いながらも震災の記憶や、その後の復旧・復興時の体験や小中学校での学びがあったと思われる。そのため、地元の身近な先輩達の想いや考えに共感する点が非常に多かったと考えられる。それは、被災地の子供達の想いや考えを、被災地の次世代の子供達につないでいくという面で非常に効果的であるが、反面、他の地域の子供達に伝わるかどうか一抹の不安を感じている。
 しかしながら、中学・高校という多感な時期の子供達はもちろん、多くの人が共感力や想像力を持っていることも疑いのないことなので、この教材が防災・減災教育や復興教育に役立つことを信じたい。

● これからの期待や展望

 今回使用した『短縮版(セレクト4)』は、内容的にも分量的にも生徒達にとって適切であったと思われる。また、東日本大震災について触れられたくないと考えている生徒もいるので、そういう生徒にとっては震災と直接関係がない『支援』や『環境』に関する小論文を選ぶことができた点も良かったと思われる。
 今後、教材化した資料を各地の中学・高校の「総合的な学習(探究)の時間」やNPOのワークショップ等でより多くの人に活用してもらうことにより、南海トラフ大地震をはじめとする自然災害が想定されている地域だけではなく、想定されていない地域も含めたさまざまな地域における防災・減災教育や復興教育等に寄与していきたいと考えている。

● 実践中の写真

           

【会員レポート】 インド洋大津波と東日本大震災の比較① 『国際支援・異文化理解』

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古水産高等学校) 会員
活動実施日:2022年6月~9月
情報提供日:2022年9月8日
連絡先:TEL. 0193-62-5550
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくるようになる事が予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、『インド洋大津波と東日本大震災の比較』に関する授業を実施したうえで、東日本大震災が発生した2011年から2021年の11年間に収集した「防災・減災」や「国際支援と復興教育」「環境問題と防災教育」等に関連する162編の小論文を教材とすることで、その想いや考えを現在や未来の高校生に引き継ぎ、新たな行動へ繋げていきたいと考えている。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文で記載したもので、全162編ある。それらを6つのテーマ別に30~36編にまとめることで、被災地の子供達の想いや考えを次世代や体験していない人達に分かりやすく継続して伝えていけるように教材化した。

 

実践の段階

 

 ● 実施した内容

1) 授業の実施

今年4月から勤務する宮古水産高校において、理科の授業(『科学と人間生活』、『生物基礎』) の中で1・2年生全員を対象に『インド洋大津波と東日本大震災の比較 ~思いやりの心と笑顔の地‐アチェ~ 』という題名でスライド写真や動画を見てもらい、インドネシア・アチェ州の人々の生活や文化・自然、そして日本人にはなじみのないイスラム教等々を紹介したうえで、2004年のインド洋大津波による被災状況や復興の現状・未来に向けての活動等を紹介した。授業の中では情報提供を集中的に行うが、生徒たちが受け身だけで終わらないよう、授業内容に関する 「確認プリント」を配布して記入させながら授業を進めた。なお、東日本大震災に関連した内容の際には、生徒達の精神的な負担にならないように配慮して実施している。

2)プリント学習(2022年7月に宮古水産高校で実施した内容を添付)
 授業の内容について振り返って再度確認できるように、授業内容に加えて授業で使用した「確認プリント」の答や生徒達の感想・意見、アンケート結果などを組み入れたプリントを作成した。生徒達への提示方法は、写真を掲載することが多いのでカラー印刷のプリントをラミネート加工したうえで各クラスに掲示し、加えて白黒版のプリントを各生徒に配布した。

e78f64781f3d6b49aca2311bb5c28846

▼実施結果の一例 

「確認プリント」の(18)~(19)の解答です。
(18)アチェのほとんどの地域では、『地震の後に( 津波 )が来る』という伝承や( 教育 )がほとんどなかったため、約16万人の方々が亡くなった。
(19)アチェの人々の心の拠り所はイスラム教であり、( 思いやり )の心や( 笑顔 )も、そこから発していると考えられる。

『ノアの箱船』をはじめ、『津波博物館』や『津波の浸水高を示す塔』などアチェの人々が震災の記録を残そうとしていることをいろいろな場面で強く感じました。その理由として考えられることがあります。

魚を持って逃げる人の絵(津波博物館)

右に、津波博物館に展示されていた1枚の絵を大きく掲載しました。絵の中央下の人が持っている白いものや、右側の海底だった所に見える白いものは魚です。実は、アチェのほとんどの地域では、約100年前にも大津波があったにも関わらず『地震の後に、津波が来る』という伝承や教育がほとんど無かったそうで、津波が来る前兆として潮が大きく引き、魚が跳ねているのを捕まえにいった人々も多くいたようです。そのため、東日本大震災と同じ位の規模の津波により約16万人の方々が亡くなりました。その悔やんでも悔やみきれない反省を踏まえて、震災の記録を残すことに全力を傾けているように感じました

3)教材化した小論文の配布(教材資料を添付)

6つのテーマのうち、前々回(2022年1月21日付けの【会員レポート】参照)は『セレクト4(人間と自然との共生)改訂版』について、前回(2022年5月18日付けの【会員レポート】参照)は『セレクト6(東日本大震災を後世に伝える方法)改訂版』について実施したが、今回は宮古水産高校の1・2年生に対し、「理科の夏休み課題」として『セレクト5(国際支援・異文化理解)』(30編)を配布した。

b169342a6c548d0327304f76d2d72b36

▼実施結果の一例

02)平成23年度宮高3年 Sさん(震災当時、宮高2年) 『私が考える(できる)国際協力や支援活動』

 私が考える国際協力とは、ただ物資を送るということではないと思う。お互いがお互いを助けたいという気持ちを持つことこそが国際協力なのではないかと考える。
 今、世界では紛争が起きていたり、飢餓で苦しむ人がいたりとたくさんの問題を抱えている。そして、3月11日に東日本大震災が起き、支援が必要な人が大勢いる。大震災を経験し、人の命の尊さ、今までの自分の生活がどれだけ贅沢だったかなど様々なことを考えさせられた。中でも強く思ったことは、協力し合うことの大切さだ。避難所にボランティアに行ったおり、外国のボランティア団体も多く見かけた。その中の1人がおばあさんの肩をもみ「僕らがいるよ」と片言で話しかけていた。そしておばあさんが「力になりたいって思ってくれることが一番うれしいよ」と言っていた。私はその通りだと思った。確かに、物資の支援がとても大切で、物資がないと生きていけない人もたくさんいると思う。でも、力になりたい、助けたいと思うことが支援される側も一番嬉しいと思うし、その気持ちが一番大切なことだと思う。力になりたいと思う気持ちから国際協力は始まっていくので、その気持ちを持つことが大切だ。
 世界には、まだまだ知らない問題があると思う。私は問題を知り、理解することから支援につなげていきたいと思った。

08)平成25年度宮高1年 Sさん(震災当時、豊間根中1年)『3.11から三年目の今、私ができること』

 現在、私達がすべき復興への手助けは、一番はまず「伝える」ことだと思う。アチェの地にある『津波博物館』や、『ノアの方舟』で助かったガヤさんの語り部としての活動のように、後世に残せる形で伝えていかなくてはならないと思う。私は中学3年生の時、近い将来に大地震や大津波が来ると言われている和歌山県に、被災地の学校の代表の一人として講話をしに行ったことがあるが、やはり私達が身をもって痛感した悲しみや辛さ、震災への備え方は、できるだけ広める必要があると思う。二番目は、「切り換える」ことだと思う。アチェの人々は、大災害を神様の恵みとして受け止め、プラス思考で前に進んでいる。「日常への感謝」や「たくさんの人との出会い」は、あの大災害があったからこそ在るのである。命や大切なものもたくさん奪われたが、得たものも少なくはない。そして、三番目、「返す」ことにつなげることが必要なのだ。「今までの分」「これからの分」、私達が大災害を経験し、学んだこと、活かせたこと、失敗したことなど、全てを他の人の役に立つように使い、恩を返すのだ。
 資料を読んで、文化は違っても「思いやり」や「助け合い」の精神は、どこにでも同じく存在していることを知った。文化や国境を越えた思いやりや助け合いの輪は、無限に広がると思う。そしてそれは今、私達がやらなくてはいけないし、私達が広げていくべきだと考える。

 

4)代表的な想い・考えを生徒に提示(実施結果を添付)

3)で配布した30編から生徒達それぞれが選んだ1編について、生徒達が書いた「筆者の想い」や「共感した所」「今の自分ができること」をプリントにまとめた。それらを読むことにより地元の先輩達の想いや考えを引き継ぎ、さらに自分の想いや考えを深め発展させることができた。

c73ff30af7f0902f4a238c5ebae45e3e

▼実施結果の一例

令和4年度 理科の夏休み課題(小論文) 

 今回、1・2年生理科の夏休み課題として小論文を提出してもらいました。内容は、東日本大震災が発生した2011年から2021年まで、被災地域にある4つの高校(宮古高校、山田高校、岩泉高校、宮古北高校)において生徒の皆さんに書いてもらった『国際支援・異文化理解』に関する小論文の一部をまとめたもの(30編)の中から1つを選び、以下のA~Cについて書いてもらいました。

:あなたの選んだ小論文の筆者は、どういう想いでこの文章を書いたと思いますか? あなたの考えを80字以上~100字以内で述べなさい。

あなたが共感したのはどういう所ですか? 80字以上~100字以内で述べなさい。  

:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることを、260字以上~300字以内で述べなさい。

 提出してもらった中から、「そんな想いもあるんだ」や「そういう視点もあるんだ」という内容の代表的な小論文を、皆さんにもお知らせしたいと思います。(選んだ小論文も添付)

(1)(令和4年度宮古水産高校1年 Aさん)(震災当時、保育園年少)

A:「筆者は、どういう想いでこの文章を書いたのか?」

 母親を亡くし前に進めない状況だったけど、周りの人が支えてくれたおかげで元気を取り戻し立ち直れたので、支えてくれた人達に感謝している気持ちと、いろいろな人に支えられた分、次は自分が恩返しをしようという気持ち。

B:「あなたが共感したのはどういう所ですか?」

 大切なものをなくす辛さを共感できた。その中で周りの支えがあるとすごく救われると思ったので、誰かが辛いときに助け、人の支えになれるような人間に自分もなりたいと思った。

C:「選んだ小論文を読み、これからあなたができることは?」

 私はこの小論文を読んで、辛い時に少しでも誰かの支えがあるとすごく救われるんだということが分かった。これからは誰かが辛い時や困っている時に、自分が支え助けてあげられるような人になりたいと思う。また、誰かに助けられたら、そのことを絶対に忘れないで、してもらったことを次は自分が返してあげられる人になりたい。そのためには、多くの人と接し、交流関係を持っていた方が助けてあげやすいと考えたので、日頃から地域の活動に積極的に参加し、年齢を問わずたくさんの人と接したいと思う。そして、この小論文の筆者のようにいつ大切な人を失うか分からないので、家族や友人のことをさらに大切にしようと思う。

選んだ小論文(震災当時、山田南小6年) 『3.11から5年を経た今、私ができること』

 震災当時、私はまだ幼かった。町では煙があちこちから立ちのぼり、店や家などは跡形もなく崩れ、本来の山田町の姿ではなくなっていた。また、私はこの震災で母を亡くし、前に進むこともできないままとなった。そんな時、私を支え、励ましてくれたのが、家族、友人、他の県の方々、そして外国からの支援だ。
 たくさんの方々から支援され、その中で一番心に残っているものは、手紙だ。手紙には励ましの言葉などが書かれており、そのおかげで辛く苦しい日々を乗り越えることができた。また、地域の方々ともお互いに支え合いながら過ごすこともできた。
 震災から五年が経ち、私は今、高校3年生となった。この五年間は、長いようで短い日々でもあった。そして、私がこの五年間で一番学んだことがある。それは、人の大切さだ。私は、もともと人見知りで、人となかなか接することができなかった。しかし、多くの方々に支えられていると気づき、そこから私も恩返しのために多くの方々を助けたいと思い、一年生から三年生まで、町で行われているボランティア活動に積極的に参加した。ボランティア活動に参加したことによって、子供からお年寄りまで幅広い年代の方と接することができ、人と接することが好きになった。
 元の山田町に戻ることはまだ時間がかかるけど、復興することを信じ、人のために生きていきたいと思う。

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 東日本大震災について、ほとんどの生徒たちが当事者であり強い関心を示す者が多いが、反面、触れたくないと考えている生徒も見受けられる。そのような生徒たちも含め被災地の高校に通学する子供達に、インド洋大津波で同じような体験をしたインドネシア・アチェ州の人々の生活・文化や豊かな自然環境などを伝え身近に感じてもらったうえで、自然災害への対応や国際支援の重要性を紹介することにより、自ら考え・行動していこうとする一つのきっかけになっていると思われる。
 また、自分達と同年代の頃の先輩達が書き残してくれた小論文を読み、その想いや考えを引き継ぎ、自分は何ができるかを考えることで、地域に根ざした防災・減災を繋いでいくことができたと思われる。

 

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 上記『実施した内容』について、対象者である宮古水産高校の生徒達は、震災当時保育園年中・年少であったので、幼いながらも震災の記憶や、その後の復旧・復興時の体験や小中学校での学びがあったと思われる。そのため、地元の身近な先輩達の想いや考えに共感する点が非常に多かったと考えられる。それは、被災地の子供達の想いや考えを、被災地の次世代の子供達につないでいくという面で非常に効果的であるが、反面、他の地域の子供達に伝わるかどうか一抹の不安を感じている。
 しかしながら、中学・高校という多感な時期の子供達はもちろん、多くの人が共感力や想像力を持っていることも疑いのないことなので、この教材が防災・減災教育や復興教育に役立つことを信じたい。

 

● これからの期待や展望

 今後、『身近な自然環境を活用した防災・減災』というタイトルで、「マングローブの役割」と「日本の防災林」について授業を行う予定である。授業実施後、今回と同様に「プリント学習」や「教材化した資料の配布」「代表的な想い・考えを生徒に提示」することで、環境教育(人間と自然との共生について)や国際理解教育(国際支援・異文化理解)、そして防災・減災教育を実施していきたいと考えている。
 また、各地の中学・高校の「総合的な学習(探究)の時間」やNPOのワークショップ等でより多くの人に資料を活用してもらうことにより、南海トラフ大地震をはじめとする自然災害が想定されている地域だけではなく、想定されていない地域も含めたさまざまな地域における防災・減災教育や復興教育等に寄与していきたいと考えている。 

● 実践中の写真(ご提供いただける場合のみ、1~2枚貼り付けてください)

           

【会員レポート】災害時の車での避難

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。


情報提供者:幾島浩恵
活動実施日:2022年5月28日~29日
情報提供日:2022年8月4日
連絡先:TEL. 0739-47-0135
Email. .hiroe.ikushima@gmail.com

準備の段階

● 実践・実施のきっかけや経緯

「災害時に車での避難は危険」と言われています。しかし、車でなければ逃げられない人はどうすれば良いのでしょうか?熊本地震では、多くの被災者が車中で避難生活を過ごしました。そして、エコノミークラス症候群などで命を落とされた方もいらっしゃいます。コロナ禍では「分散避難」のひとつに「車中泊避難」もあげられるようになりましたが、「どんな時はダメ」なのか、「やむをえず車中泊」の時には何に気を付けるべきか、逆に「車中泊を選択しても良い時」はいつなのか、災害の種類やタイミングに分けて考えていくことが必要だと思います。また何が必要なのか、普段から心がけておくことについても知り、みんなで共有していきたいです。

● 計画や準備で気をつけたこと

私自身は車の免許を取得した10代後半から車中泊をしていました。キャンプより準備物が少なく、どこででも寝られる気軽な宿泊だと考えていました。しかし「災害時を想定した車中泊」を行うのであれば、「車中泊」のリスクを参加者にも伝え、みんなで一緒に、より安全&快適な車中泊が行えるようにしていかなければならないと思います。

また、コロナ感染が広がっている時は、公衆トイレは使用後に手や身体の触れた場所をそれぞれで消毒すること、もしくは、各自で準備した携帯トイレを、車中もしくは車外で(目隠しの準備もして)行うこと、野外でも家族単位で行動し、ラインで仲間と情報共有することで感染の危険を回避しました。

遠方の方もラインを使って自宅駐車場から参加してもらうことも出来ています。

実践の段階

  • 実施した内容 5月28日(土)~29日(日)

防災VAN泊in上富田⑩」(災害時を想定した車中泊訓練)の実施
 上富田スポーツセンター現地参加5名、自宅駐車場車内からのライン参加7名+お子さん、見学者の計 14名参加。「被災状況」は、それぞれで決める。「台所にあったものを組み合わせて簡易コンロを作り、調理する」「災害時に持ちだすつもりで準備しているグッズを持ちだすことが出来ず、今車中に在るものだけで車中泊をする」「黒いゴミ袋にレトルト食材やペットボトルの水を入れて太陽光で温め、α米の調理をする」「大人数の車中泊は体勢が苦しいため、夜露を避けながら車外で野宿をしてみる」など。

今までには、「車中でトイレを何とかする」「車外でトイレを何とかする」「オムツをつかってみる」「身近にあるものを使ってプライバシーを守る」「ファイアースターターで火おこしして調理」「鉄製灰皿で調理」「キャンドルで調理」「空き缶コンロで調理」「カップ麺を水で作る(美味しい)」「ポップアップテント内でペットボトルシャワーを使ってみる」「ペットボトルとキャンドルで作ったランタン」「親子や夫婦で参加」「ペット同行車中泊」「手作りのタープ、カーテン、網戸、寝袋を使う」「パスタを茹でずにミートソースの中に入れて食べる(不味い)」「バターやサラダ油のキャンドルランタンで明かりをつくる」「ポータブルバッテリーを使う」「市販の便利グッズ、自作の便利グッズのお披露目会」など。

  • 実践中や、実施後の参加者の反応

3月に上富田消防分署のご協力で実施した「車両破壊女子軍団」(車両からの救出&脱出訓練)では、コロナ禍の為、10数名の車両破壊希望女子が残念ながら参加できず、私と撮影者として息子の2名で体験させていただきました。「シートベルトカッターでシートベルトを切る」「ヘッドレストでサイドガラスを割る」「ハンマータイプガラスクラッシャーでリアガラスを割る」「発煙筒を焚く」「バールでドアをこじ開ける(不可能)」「車載のジャッキを使って車を持ち上げる」など、やってみて分かる「意外に難しいこと」を車中泊参加者のトラックの側面をスクリーンにして動画で見てもらいました。より多くの人に体験や見学をさせてほしいと思います。

車中泊で一番困るのが、トイレです。断水で公衆トイレがつかえなかったり、ペーパーが無かったり、豪雨で外に出る事すら困難な場合、車中や、車外で目隠しして排泄する方法をそれぞれの車でできるやり方を考えてきました。市販の携帯トイレだけでなく、段ボール、ゴミ袋、尿取りパッド、ペット用トイレシート、牛乳パック、ペットボトルなどを工夫して簡易トイレを作り、ほぼ公衆トイレを使うことなく過ごすことが出来るようになってきています。

ペット同行避難のお二方は、1人は2回目、1人は初めて。初回時にペット(犬)がストレスで嘔吐して大変だったため、再チャレンジしてくれました。自宅駐車場からのライン参加で犬が近所の生活音に反応して吠える為、近所への配慮も必要との事。車中ではペット用のオムツを使うことも選択肢のひとつかもしれません。避難所に同行避難する場合はケージに入れ、過ごす場所も離れ離れとなりますが、車中であれば室内犬と一緒に寝ることもでき、飼い主、ペット双方の心の安心が保たれると思いました。

「今ここで大地震が起こったら、具体的にどうするか」と言うテーマで現地参加者と、話し合いました。県外からの参加者が2名いたので、自宅に帰ることが出来なくなると考えられ、近い避難所の場所の確認や家族と連絡を取る方法、そして、普段から今回のように遠方の人とも何らかの交流があれば、安心につながると思いました。

現地では、実際に災害の支援に関わられている方から、リアルな災害現場のお話を伺いました。

地面にマットを敷いて、車の後部から車体の下のスキマに頭を突っ込み(夜露よけ)身体はシュラフで寝られるかどうか試しましたが、自分の車(セレナ)では、決して高くはない私の鼻のアタマが擦れてしまうので無理でした。車高が高めの他の車種ならば、可能かもしれません。夏場は虫よけが必須です。

継続の段階

  • 課題に感じたこと

特にありません。コロナ禍でも、野外での活動ですし、緊急事態宣言の頃は、それぞれの車中でラインを使いながらやりとりしていたので密になることなく、遠方からの参加もできる方法です。しかし自宅駐車場からの参加者は近所への配慮が必要です。単身での参加が多いのですが、親子、夫婦、ペット同行避難もどんどん体験して欲しいと思います。コロナが落ち着けば友達と1台の車での車中泊もやりたいと思います。

寒さよりも暑さの方が車中泊には堪えると思います。虫よけや冷却グッズを試したり、標高の高い(涼しい)避難できそうな場所を知っておくことも必要かと思いました。

  • これからの期待や展望

団体として実践を始めて、1年3か月で10回実施しました。最近は県外からの参加者も増えてきました。

自分の車について、もっと知ってほしいです。車種、家族構成、住む地域や気候の違いで、安全&快適に過ごすための必要物品や注意事項は異なります。

原則は「エンジンを切って車中泊」ですが、真冬、真夏にその方法ではかえって危険ということもあるかもしれません。「エアコンを使用しながらの車中泊」について、リスク(一酸化炭素中毒、車両火災、バッテリーあがりなど)と回避方法(駐車場所、ジャンプスターター・ブースターケーブルの使い方、バッテリーのチェックなど)を知り、どのくらいのガソリンを消費するのかを知っておくこと&常にガソリンを半分以上キープしておくことも必要だと思います。

更に、車から脱出、救助するために必要な物を知り、使い方を見につける体験を地元の消防のご協力のもと、更に進めていきたいと思っています。