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【会員レポート】『東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材』 実践例①

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
活動実施日:2025年5月27日
情報提供日:2025年9月5日
連絡先:TEL. 0193-63-6448
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくることが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する162編の小論文の中から選んだ多様な視点の60編の小論文を『教材』(参考資料①参照)とすることで、被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生、あるいは震災を体験していない人々に引き継ぎ、新たな行動へつなげていきたいと考えている。
 今回、岩手県立久慈翔北高校において、介護福祉コース19名(2年生8名、3年生11名)と岩手県立北桜高校介護福祉コース11名(2年生)の「交流学習スクール」、および「いわての復興教育スクール」の一環として行われた震災学習(タイトル:「東日本大震災を経験した高校生たちの思いを継ぐ」)で、初めてこの『教材』を使用した。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】など8編を参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園・幼稚園の年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文として記載したものである。

 震災学習を実施するにあたり、指導しなければならない立場の方から「何をしたら良いか分からない」ということを聞くことがある。また、震災から7年後に、当時高校1年生の生徒が小論文の中で以下のように述べている。
 「(前略)・・小学校の先生が3月11日になると津波の話をするそうですが、経験をしていない子供達や記憶がほとんどない子供達にどのように東日本大震災の事を伝えようか戸惑うらしいです。また、当時内陸の方の小学校に勤務していた先生方も多く、子供達に当時どのような事があったのかを伝える人も少なくなってきているそうです。・・(後略)」。その生徒は続けて、「高校生の私達や中学生が、・・説明したり、その時の気持ちなどを分かりやすく語ったりして、・・」と述べている。
 岩手県では、『岩手の復興教育推進事業』の中で、「岩手の復興教育スクール」と「交流学習スクール」「震災学習列車活用スクール」という形で震災学習・防災教育を実施しているが、予算の確保や実施計画の作成等、指導者の負担が大きいのではないかと懸念される。また、震災学習を指導する側も年齢を重ねていくため、いつか指導できなくなり、震災を体験した子供達も高校を卒業していくため、後輩達に伝えることができなくなっている。
 以上のことから、東日本大震災を体験した子供達の想いや考えが形として残るように、そして「いつでも誰でも簡単に使用できる」ことを常に心がけて『教材』を作成した。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(約45分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発生したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×2コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について約45分間に短縮して参加生徒達に紹介した。そのうえで、授業内容等の「振返りプリント」の作成・掲示・配布や、それらのプリントを参考にした「600字の小論文」の課題の提出を岩手県沿岸の5つの高校で実施したことを説明した。

2) 現役高校生(久慈翔北高校生8名)による小論文(9編)の朗読(約20分間)

 今回、8年前に久慈東高校(久慈翔北高校の前身)で実施した出前授業の際に生徒達に書いてもらった小論文3編を含む『9編』(参考資料②参照)について、久慈翔北高校介護福祉コース2年生の8名に朗読してもらった(1人各1編、1人だけ2編朗読)。

3) ワークショップ(計30名参加) ~ファシリテーター:久慈翔北高校 菅原彩教諭~(約30分間)
ⅰ)朗読してもらった9編の中から1編を各自選び、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?」と「B:選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?」、および「感想」(参考資料③『朗読された小論文の感想』参照)を、別紙用紙①に書き出してもらった。
ⅱ)その用紙をもとに、4~5人のグループごとに、別紙用紙②を使いながら、「これからあなたができることは何ですか?」について話し合ってもらった。
(※ 別紙用紙②では、最初に「クロスロード」を行い話し合いに慣れた後で、「私もこんな体験をした。」、「こんなことをしたい。」、「こんなことをしている。」、「こんな方法もある。」、「能登半島地震、洪水の被災地にこんなことができる。」、等々について意見を出し合う。)
ⅲ) 話し合った内容について、各グループの代表者から短く発表してもらった。

4) 課題の配付

 授業の最後に、別紙用紙③(「原稿用紙」)を配付し、朗読した9編の小論文の中から各自が選んだ1編について、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?(160字以上~200字以内)」と「B:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?(260字以上~300字以内)」について書き、後日提出してもらった。

5) 課題の配付

後日、提出された小論文のうちのいくつかを、選んだ小論文と一緒に掲載したプリントを作成・配付し、参加生徒全員で想いや考えを共有した(参考資料④『想いや考えの共有』参照)。

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 実施した内容の1)「授業内容の紹介」

「東日本大震災」と生徒たちがまだ生まれていない約20年前に発生した「インド洋大津波」を比較して紹介し、2つの自然災害の共通点や相違点を比較検討したことで、防災・減災や復興、国際支援活動等について興味深く聴いてくれていることを感じた。また、インドネシアのマングローブ林と日本の防災林を比較しながら「自然環境を活用した防災・減災」という視点からの防災・減災について紹介することにより、「身近な自然環境」の重要性を理解してもらうことができた。

実施した内容の2)「小論文(9編)の朗読」

声に出して朗読することにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達に、より強く伝わったと思われる。たとえば、当日の震災学習を取材していたNHK盛岡放送局制作の放映番組の中で、朗読した生徒の一人が『言葉ひとつひとつに 想いがちゃんとあるんだなって思いながら読むことで 気持ちをくみ取って読もうと思いました。』と述べている。
 また、子供の頃に実際に東日本大震災を体験した地域の先輩たちの高校時代の想いや考え・感情を、同じ年頃の現役の高校生達が「自分事」として思い浮かべながら朗読することにより、聴く側の生徒達にも強く響いたと思われる。(参考資料③、および⑤(新聞記事)※:『岩手日報』令和7年6月4日付より「岩手日報社の許諾を得て転載しています。」)

実施した内容の3)「ワークショップ」

 9編の小論文の中から自分の心に引っかかった1編を選び、「共感したところ」と「これからできること」を書き出したことで、グループワークにおける発言がスムーズになったと思われる。また、互いの考えや感じたことを話し合い、多様な視点から「自分がこれからできること」を考える良い機会になったと思われる。

 講師の話を聞いて「分かったつもり」になるのではなく、地域の先輩たちの想いや考え・感情を理解したうえで、グループワークの中で互いの考えや感じたことを話し合うことは、より理解を深め、次なる行動へつながるものになると考える。

実施した内容の4)「課題の配付」と5)「想いや考えの共有」

 ワークショップの最後に各グループからの短い発表はあったが、形として残らないと「想いや考えの共有」は難しいと思われる。ワークショップ後に、自分の心に引っかかった1編について自らが書き出した「共感したところ」と「これからできること」、そしてグループワークで話し合うことで気づいた事や閃いた事をまとめて文章にしていく過程が重要である。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 今回の実践からも、朗読するのは現役の高校生、もしくは中学生であることが望ましいと感じた。
 しかしながら、例えばこの『教材』を朗読することが困難な生徒がたくさんいるクラスで実施する場合や、NPO等が一般の参加者を対象に実施する場合等、それが難しい場合が想定される。前者の場合には、朗読ではなく黙読、あるいは教師が朗読してから“実施した内容の4)「課題の配付」と5)「想いや考えの共有」”を実施する方法や、後者の場合には、主催者が朗読してからワークショップを実施する方法でも良いと思われる。
 現在、現役高校生等の朗読を録音しておいた音源を利用することができるように準備し、現場で流すという方法も試してみたいと考えている。

● これからの期待や展望

 東日本大震災の被災地だけではなく、どの地域の誰でも簡単に利用できる『教材』にしたいと考えている。“実施した内容の1)「授業内容の紹介」”を実施しないで、最初から朗読とワークショップを行うことも可能である。また、最初から朗読して、ワークショップなしで“実施した内容の4)「課題の配付」と5)「想いや考えの共有」”を実施することも可能である。
 この『教材』(15編×4セット=60編)は、【体験・生き方】や【体験・支援活動】などのテーマに合わせて必要数の小論文を選ぶことも可能である。あるいは、防災学習や復興学習・支援活動・国際理解・生き方・地域の特性・環境学習などに関する小論文があるので、あるテーマに特化した情報提供やワークショップ等を行ったうえで、適する内容の小論文を選び朗読することも可能である。

 以上のように、この『教材』の利用方法はいろいろと考えられる。共通するのは、「東日本大震災を体験した子供達の想いや考え・感情を知ることができ、知ることにより『自分事』としてどのように行動していくのかを考える場を提供できる」ことである。

 もし、この『教材』(参考資料①)の電子データが欲しい方がいれば、ptf60-j-ogasawara(アット)iwate-ed.jp まで連絡をください。メール添付で(別紙用紙①~③も含めて)提供できます。

 また、【特別セレクト①】(15編)【特別セレクト②】(15編)【体験・支援活動編】(15編)【体験・環境編】(12編)、そしてインド洋大津波に関する「授業内容の紹介」を受けなければ伝わりにくい内容を含む小論文を除いた【東日本大震災関連に限定編】(15編)もあるので、お問い合わせください。

 

 

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。