教材・事例紹介

【会員レポート】インド洋大津波と東日本大震災の比較~身近な自然環境を活用した防災・減災~

 

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

  


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古北高等学校) 様/個人正会員
活動実施日:平成23年5月~令和3年
情報提供日:2021年11月15日

連絡先:TEL. 0193-87-3513

 

※本レポートは下記の記事に関連しています。併せてご覧ください。

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

理科的視点から地域に根ざした『人間と自然との共生』をテーマに教育活動を行っていたが、東日本大震災津波を体験したことで、「自然の恵み」だけではなく「自然の脅威」を、そしてそれと対峙してきた人間の生活・文化を関連づけていくことの重要性を痛感した。そして、授業やプリント学習等により役立つ情報を提供したうえで、生徒自らが主体的に考え、興味のある情報を集め、自ら行動していくことが、防災教育や復興教育に必要であると考えた。

 

● 計画や準備で気をつけたこと

1)アンケートの実施

取り上げる教材について事前にある程度調べたうえで、生徒達の知識がどれくらいあり、興味や関心がどのような点にあるのかなどについてアンケート調査を実施し、さらに、アンケートの結果をグラフ等にまとめてプリントを作成し、生徒達に示して興味や関心を喚起する。

 

2)資料の収集

国内・海外を問わず、取り上げる教材に関係する土地を私自身ができるだけ訪れ、生の情報に常に興味をもちながらもアンケート結果を参考にしてポイントを決め、その土地の自然や人々の生活・文化、環境問題や社会問題等について見て・聴いて・体験し、感じたこと・考えたことを生徒達に伝えることに留意する。

生徒達にとって身近な存在である私を通し、さまざまな事象や問題について生徒達が身近に感じるようにすることを大切に考えている。 もちろん、私自身の体験には限りがあるので、JICA(国際協力機構)をはじめとしてさまざまな 団体・個人から資料の提供や情報を教えていただいたり、専門的に研究・実践している方や国内・海外の地元の方と連絡をとり、できるだけ新しい情報や実体験に基づく情報等を得るようにしている。

また、研究者の方に学校で講演をしていただいたり、専門的に研究・実践している方々や海外の地元の方に生徒からの質問に回答していただいたりしている。

 

実践の段階

 

  • 実施した内容

東日本大震災の翌年(2012年)、インド洋大津波により甚大な被害を受けたインドネシア・アチェ州に行く機会を得、津波に対する減災効果が報告されているマングローブ林や、現地・アチェの被災状況、および人々の生活・文化等を紹介し、東日本大震災と比較しながら考えてもらっている。さらに、岩手県と宮城県の沿岸地域や、高い確率で発生することが予想されている南海トラフ大地震津波に備えている静岡県・浜松市の取組み、などの情報も加えながら教育活動を実施している。

 

1)授業の実施

理科の授業や「総合的な学習(探究)の時間」、あるいは他校での「出前授業」や「遠隔授業」において、多くの写真や動画・アンケート結果等を使い、情報提供を集中的に行う。ただし、受け身だけで終わらせないよう、授業内容に関する 「確認プリント」を配布して記入させながら授業を進める。

また、授業後のプリント学習でより多角的に情報を伝えるため、授業内容への質問や感想・アンケートを書いてもらう。なお、東日本大震災に関連した内容の際には、生徒達の精神的な負担にならないように配慮して実施している。

 

2)プリント学習(2020年度に宮古北高校で実施した内容を添付)

授業の内容について、振り返って再度確認できるように、授業内容に加えて授業で使用した「確認プリント」の答や、生徒達の感想や意見、質問と回答、アンケート結果などを組み入れたプリントを作成する。生徒達への提示方法は、写真を掲載することが多いのでカラー印刷のプリントをラミネート加工したうえで各クラスに掲示し、加えて白黒版のプリントを各生徒に配布する。

▼プリントの一例

 

3)小論文の提出

2)で作成したプリントを白黒両面印刷した冊子を作成し、それを長期休業前に生徒へ配布したうえで、与えられた題名について600字の小論文を書くという課題を与える。その際には、配布プリントの内容だけではなく自らの興味ある情報を集めて書いても良いこととする。

なお、1)と同様、震災を想起しない題名を含める等、生徒達に配慮する。

 

4)代表的な想い・考えを生徒に提示

3)で提出してもらった小論文のうち、代表的な想いや考えのものについてまとめたプリントを作成し生徒達に配布することにより、異なった視点や多様な考えがあることを知ることで生徒達それぞれの考えを深めてもらい、高校時代にできる活動だけではなく進路選択も含めた将来につながる活動の参考にしてもらう。

 

5)教材化した小論文(全162編)の使用

(詳細については、「事例紹介 その2」で提示。)

 

  • 実践中や、実施後の参加者の反応

東日本大震災について、ほとんどの生徒たちが当事者であり強い関心を示す者が多いが、反面、触れたくないと考えている生徒も見受けられる。そのような生徒たちも含め被災地の高校に通学する子供達に、インド洋大津波で同じような体験をしたインドネシア・アチェ州の人々の生活・文化や豊かな自然環境などを伝え身近に感じてもらったうえで、自然災害への対応を紹介することにより、自ら考え・行動していこうとする一つのきっかけになっていると思われる。

学んだ生徒達は、身近な自然環境がもつ多様な役割に初めて気付いたり、イスラム教への偏見を改めるなど、自然観や世界観について認識を新たにした。なかには環境問題の解決や国際支援を目指して進学した者や、地元に残り東日本大震災からの復興を担っていこうとしている者などもいる。たくさんの生徒達が、自然環境の保全活動や国際支援活動、そして東日本大震災からの復興活動に積極的に向き合い行動していくことを期待したい。

 

継続の段階

 

  • 課題に感じたこと

これらの教育活動を通じて、生徒自らのこれまでの体験と授業やプリント学習等から得られた情報を自分の中で関連づけながら考え・行動することが問題点や課題の解決に近づく有効な方法であると理解してもらうことができたが、実際に生徒自らが校外に出て探究活動をする機会を作ることは余りできなかった。

ただし、津波等への防災・減災には多様な方法があることを授業では触れているので、「総合」の時間を使うことができれば、具体的な方法について調べ・実地検証等を行い、検討、発表、共有することは可能だと思われる。また、今年2月、岩手県沿岸のある自治体の総務課と、公式HP上の防災に関する写真の使用許可について連絡をとった際に、防災担当者から「M高校でお世話になりました○○です。(中略)・・インドネシアの津波博物館に感銘を受け、短大・大学では津波語り部活動も行ったほどでした。(後略)」という返信をもらったことで、さまざまな人材が自ら考え・行動していくような情報や考える機会の提供を今後も続けていきたいという想いを強く感じることができた。

 

  • これからの期待や展望

東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくるので、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要がある。一つの方法として、東日本大震災に関連する162編の小論文を教材とすることで、その想いや考えを現在や未来の高校生に引き継ぎ、新たな行動へ繋げていきたいと考えている。 また、教材化した資料を各地の中学・高校の「総合的な学習(探究)の時間」やNPOのワークショップ等でより多くの人に活用してもらうことにより、南海トラフ大地震をはじめとする自然災害が想定されている地域だけではなく、想定されていない地域も含めたさまざまな地域における防災・減災教育や復興教育等に寄与していきたいと考えている。