トピックス

【会員レポート】『3.11 語り継ぐ若き記憶』 -東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材の紹介-

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
活動実施日:2024年3月3日
情報提供日:2024年4月23日
連絡先:TEL. 0193-63-6448
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくることが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する百数十編の小論文を教材とすることで、辛い気持ちを乗り越えて小論文を書いてくれた被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生、あるいは震災を体験していない人々に引き継ぎ、新たな行動へ繋げていきたいと考えている。
 今回、東日本大震災の被災地である岩手県宮古市の「市民交流センター」主催で、2024年3月3日に実施された「市民交流まつり」(参考資料①(チラシ)を参照)の中で、2011年から現在まで行っている自然災害への防災・減災や支援活動等に関する教育実践を市民の方々に紹介する機会を得たので、その様子を報告する。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】など7編を参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園・幼稚園の年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文として記載したものである。それらを6つのテーマ別に30編にまとめることで、被災地の子供達の想いや考えを次世代や体験していない人達に分かりやすく継続して伝えていけるように教材化した。また、3年前より『短縮版』(2023年10月4日付けの【会員レポート】など参照)を作成し、使いやすいように工夫して実践している。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(35分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発生したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×3コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について約35分間に短縮して市民に紹介した。そのうえで、授業内容や生徒の感想・質問等を掲載した20枚前後の「振返りプリント」の作成と掲示・配布、そのプリントを参考にした「約600字の小論文」の課題の提出、等の教育実践の方法について説明した。

2) 現役高校生(宮古高校放送部の生徒4名)による小論文(15編)の朗読(約30分間)

 教材として作成した『短縮版』を一部改変した「特別編集版(15編)」(参考資料②)を、宮古高校放送部の女子生徒4名に代わるがわる朗読してもらった(参考資料③(新聞記事)を参照)。
 3月3日に実施されたこのイベント以前に取材・掲載された新聞記事によると、朗読した生徒達は、「(13年前、4才だった4人は揺れや避難した経験はかすかに覚えているが、)災害のおそろしさは理解していなかった」、「いつ、どんな災害があるか分からない。経験者の話を多くの人に伝え、守れる命が増えればいい」、「高校生が話すことに意味があると思う。後世にどうつないでいけばいいか考えながら読みたい」等と述べている。
参考資料③(新聞記事):『岩手日報』令和6年3月3日付より「岩手日報社の許諾を得て転載しています。」)
 後日、朗読をしてくれた宮古高校放送部の生徒4名に、「朗読をしてみて感じたことや想ったこと等を教えてください。」、「イベントに参加して、参考になったことや感想、あるいは実施方法等へのアドバイスがあれば記入してください。」という2つの質問に回答してもらった(参考資料④(朗読した生徒の感想など)を参照)。

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 実施した内容の1)(授業内容の紹介)については、「東日本大震災」と多くの方が具体的内容を忘れていると思われる約20年前に発生した「インド洋大津波」を比較して紹介し、2つの自然災害の共通点や相違点を比較検討したことで、防災・減災教育や国際支援活動について興味深く聴いてくれていることを感じた。また、インドネシアのマングローブ林と日本の防災林を比較しながら「自然環境を活用した防災・減災」という視点からの防災・減災教育や環境教育について紹介することにより、「身近な自然環境」の重要性を理解してもらうことができた。
 実施した内容の2)(小論文(15編)の朗読)については、胸にせまるものがあり、とても感動的であった。子供の頃に実際に東日本大震災を体験した地域の先輩たちの高校時代の想いや考えを、同じ年頃の現役の生徒達が「自分事」として思い浮かべながら朗読する今回の試みは、地域に根ざした防災・減災教育においてとても有意義なものであった。特に、朗読してくれた宮古高校放送部の4名の生徒の感想等から、小論文を黙読するだけではなく声に出して朗読することの重要性を強く感じた。これは、朗読を聴く側にとっても同様の効果があったと思われる。
 司会の「市民交流センター」の担当者からは、「子供達の視点が抜けている面があった。子供達の想いや考えを大切にしていくための契機になったのではないか。」というコメントを頂いた。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 当初は、上記『実施した内容』の次に、教材としての取り組み方法を参加者にワークショップ形式で体験してもらう企画であったが、会場の設備や時間的問題で今回は実施できなかった。別の機会にぜひ実施したいと考えている。

● これからの期待や展望

 被災地だけではなく、どの地域の誰でも活用できる教材にしていきたいと考えているので、実施した内容の1)(授業内容の紹介)が実施されなくても活用できる教材の作成を考えている。具体的には、「アチェの状況」や「マングローブの役割」に関する授業内容を受けての小論文もあるので、「授業内容の紹介」がなければ経緯が理解しにくい小論文を除いた『短縮版』を作成したい。加えて、ワークショップ形式の進行手順や使用する資料の作成も行いたいと考えている。
 また、実施した内容の2)(小論文(15編)の朗読)について、小学校(高学年向け)や中学校・高等学校等で実施する場合、その学校の児童・生徒の代表に朗読してもらうことが「自分事」として想い・考える契機になると思われる。しかしながら、それが難しい場合や学校以外でこの教材を使用する場合には、現役高校生などの朗読を録音しておいた音源を利用することができるように準備したい。

※参考資料①(チラシ)について、「宮古市市民交流センター」より転載の許諾をいただいています。

 

 

 

 

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。