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【会員レポート】東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材の実施例(その3) -『短縮版』の活用-

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古水産高等学校) 会員
活動実施日:2022年12月~2023年1月
情報提供日:2023年2月15日
連絡先:TEL. 0193-62-5550
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくことが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する百数十編の小論文を教材とすることで、辛い気持ちを乗り越えて小論文を書いてくれた被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生に引き継ぎ、新たな行動へ繋げていきたいと考えている。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文で記載したものである。それらを6つのテーマ別に30編にまとめることで、被災地の子供達の想いや考えを次世代や体験していない人達に分かりやすく継続して伝えていけるように教材化した。
 今回、上記資料は情報量が多すぎる(120ページ)ため使いにくいところがあったので、『短縮版』(実践例も含めて40ページ)を作成し、現在勤務している宮古水産高校の1・2年生に理科の冬休み課題として取り組んでもらった。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『短縮版』の資料の配布

 前回までは6つのテーマのうちから1つのテーマを選び、小論文30編を生徒に配布していたが、今回は半分の15編(目次も含めて7ページ(両面印刷で4枚))にして配布した。また、15編それぞれについて内容面から4つの分類を示し、生徒たちが1つの小論文を選びやすいように工夫した。
 4つの分類とは、『体験』(被災体験と伝承)、『環境』(身近な自然環境を活用した防災・減災)、『支援』(国際支援・国際交流)、『生き方』(これから私ができること)、とした(PDF版の資料を参照)。
 なお、今回使用した15編の他に、15編×3セット、合わせて4セット(全て内容が異なる計60編)の資料を準備し、在学中に少なくても4回、長期休業中の課題として活用できるようにした。

2)提出された課題をまとめたものを掲示・配布

 冬休み明けに提出された課題をまとめたものについてカラー版を各教室に掲示し、白黒版を1・2年生全員に配布した(PDF版の資料を参照)。

 

▼ 実施結果の一例 

令和4年度 理科の夏休み課題(小論文)

 今回、2011年から2021年までの11年間に、4つの高校で収集した小論文の中から15編を選びました。そして、それらの小論文を皆さんに読んでもらった上で、1つの小論文を選んで、以下のA~Cの課題についてあなたの想いや考えを書いてもらいました。

 :あなたの選んだ小論文の筆者は、どういう想いでこの文章を書いたと思いますか? 
 あなたが共感したのはどういう所ですか? 
 :あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることを述べなさい。

 なお、小論文を1つ選ぶ時の参考として、15編の小論文を内容別に、4つに分類しています。

 『体験』:被災体験と伝承
 『環境』:身近な自然環境を活用した防災・減災
 『支援』:国際支援・国際交流
 『生き方』:これから私ができること

 提出してもらった中から、「そんな想いもあるんだ」や「そういう視点もあるんだ」という内容の代表的な小論文を、皆さんにもお知らせします。(選んだ小論文も添付

 

(1)(令和4年度宮古水産高校2年 Aさん)(震災当時、保育園年中)

A:「筆者は、どういう想いでこの文章を書いたのか?」
 今後、いつ災害が起きても大丈夫なように、自分の経験した事を伝えていくことが大切だという想いで、筆者はこの文章を書いたと思います。

B:「あなたが共感したのはどういう所ですか?」
 私も重茂出身で、とてもこの文章に共感しました。震災前から小学生がやっていた劇の「かがやく海の重茂に」をやっていたから犠牲者が少なくて済んだんじゃないかというのは、私も共感できました。

C:「選んだ小論文を読み、これからあなたができることは?」
 私も震災を5歳の頃に経験したことがあります。その時は、何も分からない状態だったし、どうすれば良いか分からなくてとても怖い思いをした覚えがあります。その当時の私でも震災はすごく恐ろしいものだと分かるくらい怖かったです。
 あの時は、たくさんの支援に助けられたのを覚えています。多くの地域のたくさんの方から支援物資などを貰い、すごく嬉しかったのを今でも覚えています。私の住んでいる町は海がとても近くにあり、漁師がたくさんいる町で、震災の時はみんなで助け合って乗り越えました。私も誰かの役に立てるような人材になっていきたいと思います。

 

選んだ小論文(震災当時、中2)『3.11から四年目の今、私ができること』    体験・生き方

 私は、非常に海が近い小さな集落に住んでいました。しかし、東日本大震災によってこの集落は全滅してしまい、現在も仮設住宅で生活しています。震災後、その集落は災害危険区域に指定され、家を建ててはいけないことになっています。再び同じような被害を受けないための対策の一つです。この地域は、明治三陸大津波や昭和三陸大津波でも多くの被害を受けました。このことを後世に伝えるために先人は、津波到達地点を示した石碑と、二度と多くの犠牲者をださないように「此処より下に家を建てるな」と書かれた石碑を後世に残してくれました。この石碑については、これからも伝える必要があると思います。また、小学校で1年おきに行われる、昭和三陸大津波をテーマとし、当時の様子を台本にした全校表現劇「かがやく海の重茂に」もずっと伝えていくべきだと思います。私たちは、この劇のおかげで早いうちから過去にどのようなことがあったのか分かり、津波の恐ろしさを理解することができました。犠牲者が少なかったのは、これが理由であるかもしれません。
 私は先人がしてきたように、後世へ自分が体験したこと全てを伝えていきたいと思います。二度と犠牲者を出さないために。震災後に建てられた石碑にはこのように記されています。
 『後世への訓戒 大地震の後には津波が来る とにかく高い所に逃げろ 住宅は津浪浸水線より高い所に建てろ 命はてんでんこ』

 

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 東日本大震災に対して、自分達と同年代の頃の先輩達が、大人とは違う視点から感じた想いや考えを知ることで、自らの体験や学んだ知識と合わせ、自らの想いや考えを発展させることができたと思われる。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 上記『実施した内容』について、対象者である宮古水産高校の生徒達は、震災当時保育園年中・年少であったので、幼いながらも震災の記憶や、その後の復旧・復興時の体験や小中学校での学びがあったと思われる。そのため、地元の身近な先輩達の想いや考えに共感する点が非常に多かったと考えられる。それは、被災地の子供達の想いや考えを、被災地の次世代の子供達につないでいくという面で非常に効果的であるが、反面、他の地域の子供達に伝わるかどうか一抹の不安を感じている。
 しかしながら、中学・高校という多感な時期の子供達はもちろん、多くの人が共感力や想像力を持っていることも疑いのないことなので、この教材が防災・減災教育や復興教育に役立つことを信じたい。

● これからの期待や展望

 今回使用した『短縮版(セレクト4)』は、内容的にも分量的にも生徒達にとって適切であったと思われる。また、東日本大震災について触れられたくないと考えている生徒もいるので、そういう生徒にとっては震災と直接関係がない『支援』や『環境』に関する小論文を選ぶことができた点も良かったと思われる。
 今後、教材化した資料を各地の中学・高校の「総合的な学習(探究)の時間」やNPOのワークショップ等でより多くの人に活用してもらうことにより、南海トラフ大地震をはじめとする自然災害が想定されている地域だけではなく、想定されていない地域も含めたさまざまな地域における防災・減災教育や復興教育等に寄与していきたいと考えている。

● 実践中の写真