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【会員レポート】中学生・高校生向け『理科の授業で使える教材(震災学習、防災学習)』について ~東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材~

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
情報提供日:2026年10月28日
連絡先  :TEL. 0193-63-6448
      MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp 

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発災から15年を経過し、震災当時生まれていなかった子供達が中学校や高校に入学してくる現在、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。

● 計画や準備で気をつけたこと

 東日本大震災が発生した2011年から2021年まで、被災地域にある5つの高校(宮古、久慈東、山田、岩泉、宮古北)において、2012年12月にインドネシアのアチェ州を取材したうえで『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルで、防災・減災や復興、国際理解、環境問題等について情報を提供する授業やプリント学習を実施してきた。その中には、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の生徒達の震災時や震災復旧・復興時の想いや考えが、授業の内容をふまえた600字の小論文という形で多数記録されている。
 これまで、多様な視点の小論文を現役の高校生に『朗読』してもらうことにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達はもちろん聴く側の生徒達により強く伝わる授業を実践してきた(2025年9月16日【会員レポート】と2025年12月3日【会員レポート】、および2026年7月17日【会員レポート】、3編を参照)。また、2026年10月1日【会員レポート】では、生徒ではなく教員が『朗読』することでも、聞く側の生徒達に被災した当時の子供たちの想いや考え・感情が強く伝わることを実証できた。
 これらの実践は、高校の『総合的な探究の時間』や、「地震」や「津波」・「防災」などを取り上げている理科の『地学基礎』、および『科学と人間生活』の地学分野の授業で行っていた。

 今回、高校の理科の科目である『生物基礎』と『生物』で扱っている「生態系サービス」に関連する内容を含む小論文を多めに選び、【インド洋大津波と東日本大震災の比較 + 生態系サービス】版とした。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1)  作成した教材

 中学生・高校生向け『理科の授業で使える教材(震災学習、防災学習)』【インド洋大津波と東日本大震災の比較 + 生態系サービス】版(15編)(参考資料①)を作成した。(参考資料①に関連した別紙資料3「グループ討議」(改訂版)も掲載。)

 

2) これまでに工夫した内容

 2026年4月27日【会員レポート】(中学生・高校生向け『写真付き教材』)と同様に、全ての小論文の1編ずつに2枚の写真が付いていることにより、『インド洋大津波(2004年発災)』や『東日本大震災(2011年発災)』、および『生態系サービス』に関して、被災者である生徒達の想いや考え・教訓などがイメージしやすくなっている。また、地名や読み方が複数ある漢字等に「ふりがな」を付けたことで、『朗読』しやすくなっている。

 

3)  今回、工夫した内容

 15編の小論文の1編ずつに付いている2枚の写真の「解説」を、各小論文の次ページに掲載している。また、2枚の写真に加えて、小論文や「解説」の内容を補足するスライド写真1枚を、参考資料として掲載している。
 写真の「解説」を記載するにあたり特に留意したのは、『インド洋大津波』に関連した写真について国際理解や支援活動に関して分かりやすく「解説」することと、『生態系サービス』に関連した写真について具体例を示す等の工夫をして理解しやすく「解説」することである。
 なお、各小論文に付いている3枚の写真(3枚×15編=計45枚の写真)については、参考資料②『写真(PDF版)』として1枚ずつ映写することができる。『朗読』を実施する前の「導入」として、必要な写真を映写しながら「解説」することも可能である。

 『生態系サービス』とは“豊かな生態系から受けている恩恵”のことであるが、その中でも防災・減災に関して『生態系を活用した防災・減災:Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)』という考え方がある。これは、「生態系の保全・再生を通じて防災・減災や生物多様性を含めた地域の課題を複合的に解決しようとする」ものである。
(引用:環境省自然環境局生物多様性センター「生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)の基礎情報」https://www.biodic.go.jp 2006年9月24日)
 具体的には、「洪水緩和に向けた湿地の保全・再生」や、「土砂災害の防止や水源涵養を目的とした森林整備」、「沿岸域の海岸防災林や河川の水害防備林の保全」などがある。それらによりさらに、「地域に自然と触れ合う場を提供するといった社会的な効果」や、「エコツーリズムの実施等による経済的な効果」、さらに海岸防災林やマングローブ林などの森林による生物多様性の保全や、二酸化炭素の吸収源(温室効果の抑制)や酸素の発生源・水質浄化、などの多様な効果も期待できる(「」内の太字筆者)。

 

● 実施中や実施後の参加者の反応

 この教材を用いた授業はまだ実施していない。しかし、この教材を作成するにあたり、被災地域にある5つの高校で実施してきた授業の中で、防災・減災や復興、国際理解や支援活動、「生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)」について生徒達(子供達)に伝え、そしてプリント学習を通して一緒に考えてきた。
 そのような教育実践の中で子供達が書いてくれた小論文に関連する「写真」や「解説」を掲載することは、この教材を用いた授業を実際に行う時に、小論文の内容をより深く理解し、書いてくれた子供達の想いや考え・感情をイメージするために役立つと考える。

 

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 中学校の理科の教科書では『生態系サービス』という語句は出てこないかも知れない。しかしながら、中学校学習指導要領(平成29年告示)の「防災を含む安全に関する教育」の中で、理科第2分野では「自然の恵みと火山災害、地震災害」や「自然の恵みと気候災害」、「地域の自然災害について、総合的に調べ、自然と人間との関わり方について認識すること」などが挙げられている(「」内の太字筆者)。
 これらは、Eco-DRR(生態系を活用した防災・減災)の考え方と一致するものだと考えられる。

● これからの期待や展望

 中学校学習指導要領の「防災を含む安全に関する教育」を読んでいて、「理科」や「総合的な学習の時間」だけではなく、中学校の社会科地理的分野(「日本の地形や気候の特色、海洋に囲まれた日本の国土の特色、自然災害と防災への取組などを基に、日本の自然環境に関する特色を理解すること。」、「幾つかの区分した日本のそれぞれの地域について、その地域的特色や地域の課題を理解すること。」など)でもこの教材を活用できるのではないかと感じた(「」内の太字筆者)。
 同様に、高校においても「理科(地学分野、生物分野)」や「総合的な探究の時間」だけではなく、「地理総合(自然環境と防災、など)」や「地理探究(自然環境、持続可能な国土像の探究、など)」、あるいは自然災害とは直接の関係はないが、「公民(国際交流、支援活動、生き方、など)」、「国語(朗読、グループ討議、作文、など)」でも活用できるのではないかと思う。

 この『教材』の利用方法はいろいろと考えられるが、共通するのは「東日本大震災を体験した子供達の想いや考え・感情を知ることができ、知ることにより『自分事』としてどのように行動していくのかを考える場を提供できる」ことである。

● 実践中の写真

【会員レポート】中学生・高校生向け『写真付き教材』の実践例⓶ ~東日本大震災を体験した子供達の 想い・考えを、次世代に伝える教材~

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情報提供日:2026年9月24日
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      MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp 

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発災から15年を経過し、震災当時生まれていなかった子供達が中学校や高校に入学してくる現在、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。

● 計画や準備で気をつけたこと

 東日本大震災が発生した2011年から2021年まで、被災地域にある5つの高校(宮古、久慈東、山田、岩泉、宮古北)において、2012年12月にインドネシアのアチェ州を取材したうえで『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルで、防災・減災や復興、国際理解、環境問題等について情報を提供する授業やプリント学習を実施してきた。その中には、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の生徒達の震災時や震災復旧・復興時の想いや考えが、授業の内容をふまえた600字の小論文という形で多数記録されている。
 これまで、多様な視点の小論文を現役の高校生に『朗読』してもらうことにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達はもちろん聴く側の生徒達により強く伝わる授業を実践してきた(2025年9月16日【会員レポート】と2025年12月3日【会員レポート】、2編を参照)。また、それらの実践をふまえて、いくつかの点を改良した『教材』を作成した(2026年4月27日【会員レポート】を参照)。
 今回、今年(令和8年)5月26日に岩手県立久慈翔北高等学校において実施した震災学習(2026年7月17日【会員レポート】中学生・高校生向け『写真付き教材』の実践例①、参照)に引き続き、現在講師として理科の授業を行っている宮古高校定時制の4年生(13名)と1年生(7名)を対象に、理科の授業(4年生は『地学基礎』、1年生は『科学と人間生活』の地学分野)内で、「中学生・高校生向け『写真付き教材』」を使用した。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(約50分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発生したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×2コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について短縮して参加生徒達に紹介した。そのうえで、上記5つの被災地域の高校において授業内容の1つとして「600字の小論文」の課題を提出してもらったこと、そしてその中から今回10編を選んで私が朗読することを説明した。(定時制の生徒達の中には、人前で朗読することが難しい生徒もいるので、今回は教員が朗読することとした。)

 

2) 教員による小論文(10編)の朗読(約20分間)

 今回、震災を体験した生徒達の小論文10編(参考資料①参照)について、私(教員)が朗読した。
 10編の小論文の選定は、できるだけ多様な視点と体験を含むことや、実際の体験から得られた教訓や提言を含むこと、等を考慮した(平成23~26年度の宮古高校全日制の生徒が書いた6編を含む)。
 朗読する際に気を付けたことは、間を取り、ゆっくりと気持ちを込めて読むことである。

 

3) ワークショップ

 教員が朗読した10編の中から1編を各自選び、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?」と「B:選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?」、および「感想」を、別紙資料1に書き出してもらった。
 本来であれば、その用紙をもとに数人のグループごとに、別紙資料2「グループ討議資料」を使いながら、「これからあなたができることは何ですか?」について話し合いをもつのであるが、定時制の生徒達の中には、人前で自分の意見を出すのが苦手な生徒もいるので、ワークショップは実施しなかった。

 

4) 課題の配付

 授業終了時に、別紙資料3「原稿用紙」を配付し、朗読した10編の小論文の中から各自が選んだ1編について、別紙資料1を参考にして「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?(160字以上~200字以内)」と「B:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?(260字以上~300字以内)」について書いてもらい、時間内に書き終えた生徒についてはその場で、それ以外の生徒には後日提出してもらった。

 

5) 想いや考えの共有

 後日、提出された別紙資料3「原稿用紙」を編集して、宮古高校文化祭の『定時制学習発表』で展示した(選んだ小論文と一緒に掲載したプリントを作成。ただし、名前については「Aさん、Bさん、・・・」と表記)。 
(それらのプリントの一部を、参考資料②『想いや考えの共有』(4年生7名、1年生3名、計10名分)として掲載。) 

 

● 実施中や実施後の参加者の反応

実施した内容の1)「授業内容の紹介」

 今年(令和8年)4月20日16:52頃に発生した三陸沖を震源とする地震・津波(宮古市で震度5弱・津波の高さ40㎝)の時、定時制の生徒達は授業中であった。大きな揺れや緊急地震速報が鳴り響く中で机の下に隠れ、揺れがおさまった後、津波に備えて校舎の4階に避難した。
 生徒達は、そのような体験をしたり、居住地が東日本大震災の被災地域であることなどから、遠い国の話であるインド洋大津波や自分が生まれた頃でほとんど記憶がない東日本大震災の話について、とても意欲的に聴いてくれていることを感じることができた。

 

実施した内容の2)「小論文(10編)の朗読」

 東日本大震災当時、保育所年長から高校2年生だった子供達が高校生の時に書いた小論文を、書いた子供達と同じ年頃の生徒達が「朗読」をするのが理想である。しかし今回のように、それが難しい状況もあると思われる。そのような場合には教員による「朗読」や、生徒による黙読でも、小論文の内容をふまえた上での生徒達の想いや考えを表現することは十分可能だと考える。
 この教材に「朗読」を取り入れる前には、長期休業中の理科の課題として15編をまとめた冊子を配布し、その中の1編を選び別紙資料3「原稿用紙」を休み明けに提出する形をとっていた。「朗読」がないその形でも、震災や防災に関する生徒達の想いや考えを引き出すことは十分可能であった。

 

実施した内容の3)「ワークショップ」

 グループ討議がなくても、今回のように「実施した内容の4)課題の配付」と「実施した内容の5)想いや考えの共有」を実施することは可能である。
 「朗読」と「グループ討議」、および「想いや考えの共有」の3つを実施することが望ましいが、「朗読」と「グループ討議」の2つ、もしくは「朗読」と「想いや考えの共有」の2つを実施することでも同じように防災学習・震災学習の目標に達することは可能であると考える。

 

実施した内容の4)「課題の配付」、および実施した内容の5)「想いや考えの共有」

 参考資料②『想いや考えの共有』にあるように(一例を以下に掲載)、被災者の視点から震災を理解し、共感を深め、「自分事」として考えることができたと思う。
 

『想いや考えの共有』の一例
 (令和8年度宮古高校定時制4年 Eさん) 

A:「あなたが共感したのはどういう所ですか?」
 「今、生きているということが、どれだけ恵まれているのか」。当時3歳だった私は、3.11のことを全く覚えておらず、母から当時のことを教えてもらった。私が今こうして生きていられるのは、あの時私をおんぶして必死に逃げてくれた祖父や家族のおかげだ。命がけで守ってもらった私だからこそ、生きていることのありがたさを深く感じる。当たり前の日常の尊さを忘れず、一日一日を大切にしたい。

B:「選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?」
 今の私にできることは、この命を大切に全うすることだ。まずは、一日一日を全力で生き、「明日やろう」と後回しにせず、目の前のことに一生懸命取り組む。困難にぶつかった時は、私をおんぶしてくれた祖父の姿や、当時の話を思い出し、それを糧にして頑張る。
 私はこの小論文を読み、命の重さと当たり前の日常の尊さを感じた。だからこそ、震災のことを次の世代へしっかり語り継ぎ、「自分の命を守るために、どのように動くか」を、みんなで考えていきたい。当たり前の毎日が、どんなに幸せで尊いかを伝えながら、震災の教訓を未来へしっかりと繋いでいきたい。

選んだ小論文
05)【震災当時、大槌町在住・吉里吉里中学校2年生】 平成26年度・宮古高校3年 Kさん

『3.11から四年目の今、私ができること』

 東日本大震災から今日まで、様々な節目で「今の自分にできること」を考えました。その末に辿り着いたのは、「今を一生懸命生きる」ということです。具体性がない、と言われるかもしれません。しかし、私はこれが「今の自分にできること」であり、「やらなければいけないこと」だと思います。
 震災で私たちは多くのものを失いました。未だに戻ってこないものも沢山あります。「明日やろう」と思っていたことができなくなりました。「当たり前だ」と思っていたことの大切さに気がつきました。今、生きているということが、どれだけ恵まれているのかを感じました。それゆえ、私たちは何をするにせよ、この一瞬一瞬を全力で生きていかなければならないのです。震災により命を落としてしまった方々の分も、有意義な人生を送らなければならないのです。
 私たちが今を懸命に生きることは、将来の社会貢献にもつながります。震災での経験を活かし、未来を創り上げることができるのは私たちです。しかし、「一生懸命」というのは決して簡単なことではありません。辛いときも疲れてしまうときもあると思います。そういう時こそ、東日本大震災を振り返り、忘れないようにすることが大切だと思います。
 震災前、当日、直後、全てを知っている私たちだからこそ創り上げることのできる未来を、一生懸命築いていきたいと思います。復興に役立つ人間に成長していきたいです。

 この教材を使い、震災を体験した子供たちの生の声や感情・教訓を後世に伝えることで、時間の経過とともに薄れゆく震災の記憶を定着させることは可能であると考える。また、生徒達が自然災害に対する防災・減災について自ら考え行動しようとする力を育むことが可能であると考える。

 

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 小論文10編について、関連するカラー写真を各編に2枚ずつ付けたが、参加する生徒の人数分(10編=10枚)をカラー印刷するのは、印刷費用の点で難しい、ということを感じた。写真が白黒印刷でも文字だけよりはイメージを想像しやすいが、カラー印刷の方がよりイメージしやすいのは確かであるので、今後検討していきたい。
 また、旧教材と比較して、活字を大きくしたこと、加えて地名や複数の読み方がある漢字などに「ふりがな」を付けたことで黙読しやすくなったと思われる。さらに、教員による朗読があったので内容を理解しやすくなったと思われる。
 各小論文に写真を2枚ずつ付けたが、「実施した内容の1)「授業内容の紹介」」で使わなかった写真も使用したので、写真の解説を付けた「教材」を作成したいと考えている。

● これからの期待や展望

 東日本大震災から15年が過ぎ、震災記憶の風化が進んでいることを感じている人は多いと思われる。時の流れにより風化が進むのは仕方がない、と諦めてしまう人もいるかも知れない。しかし、津波による甚大な被害を何度も繰り返し受けてきた三陸地域で伝わる「津波てんでんこ」のように、あるいは文字としては記録されていない百数十年前に発災した大津波の記録を口承文芸として伝承してきたインドネシア・シムル島の「スモン」のように、先人の被災体験や教訓が伝わったことで助かった命がたくさんあるという事実を忘れてはいけない。
 原爆詩の『朗読』を続けている吉永小百合さんの活動や、ひめゆり平和祈念資料館等で行われている元学徒の体験を綴った手記や絵本の『朗読』は、聴く人の感情に強く訴える。
 東日本大震災の被災者である子供達の「想いや考え・感情」は、『朗読』することにより共有することができ、そしてそれは被災体験や教訓を未来へ引き継いでいくための有効な方法の一つであると考える。

● 実践中の写真

【会員レポート】小学校高学年向け『写真解説付き教材』について ~東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材~

 

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準備の段階

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発災から15年を経過し、震災当時生まれていなかった子供達が中学校や高校に入学してくる現在、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。

● 計画や準備で気をつけたこと

 東日本大震災が発生した2011年から2021年まで、被災地域にある5つの高校(宮古、久慈東、山田、岩泉、宮古北)において、2012年12月にインドネシアのアチェ州を取材したうえで『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルで、防災・減災や復興、国際理解、環境問題等について情報を提供する授業やプリント学習を実施してきた。その中には、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の生徒達の震災時や震災復旧・復興時の想いや考えが、授業の内容をふまえた600字の小論文という形で多数記録されている。
 これまで、多様な視点の小論文を現役の高校生に『朗読』してもらうことにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達はもちろん聴く側の生徒達により強く伝わる授業を実践してきた(2025年9月16日と2025年12月3日、2026年7月17日付けの【会員レポート】3編を参照)。
 今回、小学校高学年向けにインド洋大津波や東日本大震災による被害状況、あるいは防災・減災、支援活動・国際協力などについてイメージしやすい工夫を加えた教材を作成した。
 また、小学校高学年向けに、より『朗読』しやすい工夫、および『ワークショップ』のやり方などについても改良を加えたので、紹介する。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 作成した教材

 小学校高学年向け『写真解説付き教材』【インド洋大津波と東日本大震災の比較】版(15編)(参考資料①)を作成した。

2) 工夫した内容

 ⅰ)全ての作文の1編ずつに2枚の写真が付いていることにより、『インド洋大津波
   (2004年発災)』や『東日本大震災(2011年発災)』等に関して、被災者である
   高校生達の想いや考え・感情などがイメージしやすくなっている。
   また、全ての写真について作文の次ページに、解説を付けている。
 ⅱ)全ての漢字やカタカナ・年号等に「ふりがな」を付けたことで、『朗読』しやすくなって
   いる。
 ⅲ)グループ(班)討議で使用するワークシートを、小学校高学年向けに改良した。

3) 利用法

・実践例1(50分コース)
 ⅰ)掲載されている15編の中から9編を選び、配布する(「導入」を含め、約5分)。
 ⅱ)児童もしくは教員が、配布した9編の作文を『朗読』する(約25分)。
 ⅲ)各児童が9編の中から1つの作文を選んだうえで、以下の課題について簡単に書き出す
   (約5分)。
   (別紙資料1(小学生用))
    A:高校生の作文を読んで、感じたことを書いてみましょう。
    B:あなたが選んだ作文を読んで、これからあなたができることを書いてみましょう。 
 ⅳ)選んだ作文ごと、もしくは合併で数人の班を作り、別紙資料2「グループ討議」(小学生用)
   に沿って話し合い、班ごとに発表する。(班分け:約5分、グループ討議・発表:約10分)

・実践例2(50分×2コース)
 ⅰ)震災学習や防災学習などの情報を提供(約30分)。
 ⅱ)掲載されている15編の中から9編を選び、配布する(約5分)。
 ⅲ)参加者(児童等)もしくは開催者(教員等)が、配布した9編の作文を『朗読』する
   (約25分)。
 ⅳ)各児童が9編の中から1つの作文を選んだうえで、実践例1の(ⅲ)と同じ課題について
   簡単に書き出す(約10分)。(別紙資料1(小学生用))
 ⅴ)選んだ作文ごと、もしくは合併で数人の班を作り、別紙資料2「グループ討議」(小学生用)
   に沿って話し合い、班ごとに発表する。(班分け:約5分、グループ討議・発表:約25分)
 ⅴ‘)または、作文中の語句や『いわて震災津波アーカイブ~希望~』等を参考に、ネットを
   使い「調べ学習」を各自、あるいは班で行い、後日発表する。(50分×4コース)

・実施上の留意点
1 朗読するのは、小学校高学年が望ましい。しかし、児童による朗読が難しい等の状況によって
  は教員や主催者による朗読でもよいし、各児童の黙読でもよい。
2 作文1編の朗読に要する時間は、おおよそ2分である。(朗読の前後に必要な時間を加味する
  と、1編=約2分30秒。)
3 朗読する作文の数は、9~15編が適当であるので、「導入」や「グループ(班)討議」等に
  必要な時間を考慮して数を決める。(場合によっては、より少ない数の作文に限定しても
  よい。)

 

● 実施中や実施後の参加者の反応

 この教材を用いた小学校高学年向けの授業はまだ実施していない。しかし、上記3編の【会員レポート】の際に実施していた『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の高校生向けの授業が実施されなくても、今回各作文に付けた2枚の写真を見ることにより、そしてその写真の解説を読むことにより、書いてくれた震災を体験した高校生たちの想いや考え・感情について参加した児童がイメージしやすくなっていると思われる。そのため、今回小学校高学年向けに工夫した『教材』は、「いつでも誰でも簡単に使用できる教材」になっていると考える。
 また、掲載した作文の中では、震災当時の自らの体験をふまえたうえでの教訓や、これからの自分に何ができるのか等について述べていることから、多くの参加した児童の共感を得ることができると考える。
 

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 これまで高校の教員としてしか教育活動を行ったことがないため、小学生がどのくらいの漢字を読めるのか、語句の意味を理解できるのか、意見を出し合えるのか等々について把握できていない。
 そのような状況にも関わらず『小学校高学年向けの教材』を作成し【会員レポート】として公表したのは、現在実際に小学生に教えている方だけではなく、教えたことがある方、あるいは小学生のお子さんがいる方、そして現在小学生の子供たちなど多くの方々からご意見を頂きたいと考えたからである。

● これからの期待や展望

 東日本大震災当時、高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の生徒達の震災時や震災復旧・復興時の想いや考え・感情が書き込まれた小論文(作文)は、震災学習や防災学習において貴重な資料であると考える。
 この資料を多くの教育現場で「教材」として活用していただきたい。
 また、この15編の『写真解説付き』作文は、親子で一緒に読み、さらに子供たちが声に出して読むことで「自分事」にできるという利用法にも適していると思うので、できるだけ多くの親子に活用していただきたい。
 今後、今回作成した「小学校高学年向け」だけではなく「中学生・高校生向け」の教材をブラッシュアップしていきたいと考えている。また、「小学校低学年向け」の教材や、防災・減災学習と共に日本語学習を一緒にできる外国人向けの「日本語学習用」教材を検討している。
 加えて、「幼児向け」に、生徒達が書いてくれた小論文(作文)の内容を「絵本」や「紙芝居」にできないかを検討しているが、私だけの力では難しいので、「絵本」や「紙芝居」を作成するノウハウに詳しい方からのご連絡をお待ちしている。

 

 

● 実践中の写真

           

【会員レポート】中学生・高校生向け『写真付き教材』の実践例① ~東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材~

 

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
活動実施日:2026年5月26日
情報提供日:2026年7月8日
連絡先  :TEL. 0193-63-6448 
      MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp 

 

準備の段階

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発災から15年を経過し、震災当時生まれていなかった子供達が中学校や高校に入学してくる現在、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。

● 計画や準備で気をつけたこと

 東日本大震災が発生した2011年から2021年まで、被災地域にある5つの高校(宮古、久慈東、山田、岩泉、宮古北)において、2012年12月にインドネシアのアチェ州を取材したうえで『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルで、防災・減災や復興、国際理解、環境問題等について情報を提供する授業やプリント学習を実施してきた。その中には、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の生徒達の震災時や震災復旧・復興時の想いや考えが、授業の内容をふまえた600字の小論文という形で多数記録されている。
 これまで、多様な視点の小論文を現役の高校生に『朗読』してもらうことにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達はもちろん聴く側の生徒達により強く伝わる授業を実践してきた(2025年9月16日【会員レポート】と2025年12月3日【会員レポート】、2編を参照)。また、それらの実践をふまえて、いくつかの点を改良した『教材』を作成した(2026年4月27日【会員レポート】を参照)。
 今回、昨年(令和7年)5月27日にも出前授業(旧教材を使用)を実施した岩手県立久慈翔北高等学校において、介護福祉系列2年生25名と岩手県立北桜高等学校介護福祉系列2年生11名、計36名を対象に、「交流学習スクール」、および「いわての復興教育スクール」の一環として行われた震災学習(タイトル:「東日本大震災を経験した高校生たちの思いを継ぐ」)で、初めて「中学生・高校生向け『写真付き教材』」を使用した。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(約45分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発生したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×2コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について短縮して参加生徒達に紹介した。そのうえで、上記5つの被災地域の高校において授業内容の1つとして「600字の小論文」の課題を提出してもらったこと、そしてその中から今回12編を選んで生徒達に朗読してもらうことを説明した。

2) 久慈翔北高校と北桜高校の生徒(計12名)による小論文(12編)の朗読(約25分間)

 今回、震災を体験した生徒達の小論文『12編』(参考資料①参照)について、朗読してもらった(1人各1編を朗読)。読み手の生徒は、二校の指導者にその場で指名してもらった
 朗読してもらった12編の小論文の選定は、できるだけ多様な視点と体験を含むことや、実際の体験から得られた教訓や提言を含むこと、等を考慮した(久慈翔北高校の前身である久慈東高校の生徒が書いた2編を含む)。

3) ワークショップ

 朗読してもらった12編の中から1編を各自選び、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?」と「B:選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?」、および「感想」を、別紙資料①に書き出してもらった。
 その用紙をもとに、6~7人のグループごとに、別紙資料②(「グループ討議資料」)を使いながら、「これからあなたができることは何ですか?」について話し合う予定であったが、予定時間を過ぎてしまったのでワークショップは実施せず、次の4)課題の配付だけを授業終了後に実施してもらった。

4) 課題の配付

 授業終了後に、別紙資料③(「原稿用紙」)を配付し、朗読した12編の小論文の中から各自が選んだ1編について、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?(160字以上~200字以内)」と「B:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?(260字以上~300字以内)」について書いてもらい、後日提出してもらった。

5) 想いや考えの共有

 後日、提出された小論文のうちのいくつかを、選んだ小論文と一緒に掲載したプリントを作成・配付し、参加生徒全員で想いや考えを共有した(参考資料②『想いや考えの共有』(10名分)参照)。

 

● 実施中や実施後の参加者の反応

実施した内容の1)「授業内容の紹介」

 今年(令和8年)4月20日に発生した三陸沖を震源とする地震・津波(久慈市で震度4・津波の高さ80㎝)の時、久慈市指定緊急避難場所および指定避難所に指定されている久慈翔北高校には、当時約400名の一般市民が避難してきたそうである。その際に、教職員や介護福祉系列の生徒をはじめ多数の生徒たちも協力して対応したというお話を聞いていた。
 そのような体験をしたり、防災や介護福祉について強い意識を持っている生徒達なので、遠い国の話であるインド洋大津波や自分が生まれた頃でほとんど記憶がない東日本大震災の話について、とても意欲的に聴いてくれていることを感じることができた。

実施した内容の2)「小論文(12編)の朗読」

 その場で各校の先生から指名されての朗読であったが、誰一人嫌な顔をせずに立派に朗読してくれた。聞き手の生徒達も、配付された小論文の冊子を見ながら真剣に聴いている姿が印象的であった。
 久慈翔北高校の先生からは、「朗読することで伝わることが多くあることも再確認できました。震災をほとんど知らない生徒たちも、当時の高校生の小論文から感じることが多くあったようです」というお話を、北桜高校の先生からは、「読む(黙読)するだけでは伝わらないことが、生徒が朗読することでよく伝わる」というお話をいただいた。

実施した内容の3)「ワークショップ」

 実施した内容の1)「授業内容の紹介」に時間をかけてしまい、グループ討議は実施できなかった。今後は、紹介するスライド写真を最初から少なくして実施したい。
ただし、グループ討議がなくても、今回のように「実施した内容の4)課題の配付」と「実施した内容の5)想いや考えの共有」を実施することは可能である。
 「朗読」と「グループ討議」、および「想いや考えの共有」の3つを実施することが望ましいが、「朗読」と「グループ討議」の2つ、もしくは「朗読」と「想いや考えの共有」の2つを実施することでも同じように防災学習・震災学習の目標に達することは可能であると考える。

実施した内容の5)想いや考えの共有

 参考資料②『想いや考えの共有』(10名分)にあるように、被災者の視点から震災を理解し、共感を深め、「自分事」として考えることができたと思う。
 この教材を使い、震災を体験した子供たちの生の声や感情・教訓を後世に伝えることで、時間の経過とともに薄れゆく震災の記憶を定着させることは可能であると考える。また、生徒達が自然災害に対する防災・減災について自ら考え行動しようとする力を育むことが可能であると考える。

 

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 小論文12編について、関連するカラー写真を各編に2枚ずつ付けたが、参加する生徒の人数分(12編=12枚)をカラー印刷するのは、印刷費用の点で難しい、ということを感じた。今回は、冊子の小論文と写真は白黒印刷にし、12編の各小論文に掲載した2枚のカラー写真をスライド写真にしてスクリーンに映しながら朗読してもらったが、生徒達は冊子を見る方に集中し、スクリーンはあまり見ていなかった。写真が白黒印刷でも文字だけよりはイメージを想像しやすいが、カラー印刷の方がよりイメージしやすいのは確かであるので、今後検討していきたい。
 また、旧教材と比較して、活字を大きくしたこと、加えて地名や複数の読み方がある漢字などに「ふりがな」を付けたことで『朗読』しやすくなったと思われるが、生徒によっては「ふりがな」が付いていない漢字でひっかかっている場面もあった。現在作成中の「小学校高学年向け『写真付き教材』」のように、全ての漢字に「ふりがな」を付けることも検討していきたい。

● これからの期待や展望

 東日本大震災から15年が過ぎ、震災記憶の風化が進んでいることを感じている人は多いと思われる。時の流れにより風化が進むのは仕方がない、と諦めてしまう人もいるかも知れない。しかし、津波による甚大な被害を何度も繰り返し受けてきた三陸地域で伝わる「津波てんでんこ」のように、あるいは文字としては記録されていない百数十年前に発災した大津波の記録を口承文芸として伝承してきたインドネシア・シムル島の「スモン」のように、先人の被災体験や教訓が伝わったことで助かった命がたくさんあるという事実を忘れてはいけない。
 原爆詩の『朗読』を続けている吉永小百合さんの活動や、ひめゆり平和祈念資料館等で行われている元学徒の体験を綴った手記や絵本の『朗読』は、聴く人の感情に強く訴える。
 東日本大震災の被災者である子供達の「想いや考え・感情」は、『朗読』することにより共有することができ、そしてそれは被災体験や教訓を未来へ引き継いでいくための有効な方法の一つであると考える。

 

 

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。

           

【会員レポート】中学生・高校生向け『写真付き教材』について ~東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材~

 

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
情報提供日:2026年4月15日
連絡先  :TEL. 0193-63-6448
      MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発災から15年を経過し、震災当時生まれていなかった子供達が中学校や高校に入学してくる現在、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。

● 計画や準備で気をつけたこと

 東日本大震災が発生した2011年から2021年まで、被災地域にある5つの高校(宮古、久慈東、山田、岩泉、宮古北)において、2012年12月にインドネシアのアチェ州を取材したうえで『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルで、防災・減災や復興、国際理解、環境問題等について情報を提供する授業やプリント学習を実施してきた。その中には、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の生徒達の震災時や震災復旧・復興時の想いや考えが、授業の内容をふまえた600字の小論文という形で多数記録されている。
 これまで、多様な視点の小論文を現役の高校生に『朗読』してもらうことにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達はもちろん聴く側の生徒達により強く伝わる授業を実践してきた(2025年9月16日と2025年12月3日付けの【会員レポート】、2編を参照)。
 今回、インド洋大津波や東日本大震災による被害状況、あるいは防災・減災、支援活動・国際協力などについてイメージしやすい工夫を加えた教材を作成した。
 また、より『朗読』しやすい工夫、および『ワークショップ』のやり方などについても改良を加えたので、紹介する。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 作成した教材

 中学生・高校生向け『写真付き教材』①【インド洋大津波と東日本大震災の比較】版(15編)(参考資料①)と、②【東日本大震災関連に限定】版(15編)(参考資料②)を作成した。

2) 工夫した内容

 全ての小論文の1編ずつに2枚の写真が付いていることにより、『インド洋大津波(2004年発災)』や『東日本大震災(2011年発災)』等に対して、被災者である生徒達の想いや考え・感情などがイメージしやすくなっている。
 また、地名や読み方が複数ある漢字等に「ふりがな」を付けたことで、『朗読』しやすくなっている。

3) 利用法

・実践例1(50分コース)
ⅰ) 掲載されている15編の中から9編を選び、配布する(「導入」を含め、約5分)。
ⅱ) 生徒もしくは教員が、配布した9編の小論文を『朗読』する(約20分)。
ⅲ) 各生徒が9編の中から1つの小論文を選んだうえで、以下の課題について簡単に書き出す
  (約10分)。(別紙資料1『学校用』)
   A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?
   B:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか? 
ⅳ) 別紙資料1を参考にして、以下の課題を提出させる(約15分)(別紙資料2 『原稿
  用紙』
)。
  または、宿題として後日提出とする。
   A:(160字以上~200字以内で述べなさい。)
   B:(260字以上~300字以内で述べなさい。)
ⅴ) 後日、提出された小論文のうちのいくつかを、選んだ小論文と一緒に掲載したプリントを
   作成・配布し、参加生徒全員で想いや考えを共有する。 
・実践例2(50分×2コース)
ⅰ) 震災学習や防災学習などの情報を提供(約30分)。
ⅱ) 掲載されている15編の中から9編を選び、配布する(約5分)。
ⅲ) 参加者(生徒等)もしくは開催者(教員等)が、配布した9編の小論文を『朗読』する
  (約20分)。
ⅳ) 各生徒が9編の中から1つの小論文を選んだうえで、以下の課題について簡単に書き出す
  (約10分)。(別紙資料1)
ⅴ) 選んだ小論文ごと、もしくは合併で数人の班を作り、『グループ討議資料』(別紙資料3)
   に沿って話し合い、各班ごとに発表する(班分け:約5分、グループ討議・発表:約30
   分)。
ⅴ‘)または、別紙資料2『原稿用紙』に記述(約35分)、提出後、実践例1の(ⅴ)と同様に
   行い、参加生徒全員で想いや考えを共有する。
ⅴ“)または、小論文中の語句や『いわて震災津波アーカイブ~希望~』等を参考に、ネットを
   使い「調べ学習」を各自、あるいは班で行い、後日発表する。(50分×4コース)
・実施上の留意点
1 心を込めて「朗読」するのは、中学生や高校生、または大学生等の若い世代が望ましい。
  しかし、生徒による朗読が難しい等の状況によっては教員等による朗読でもよいし、各生徒の
  黙読でもよい。
  また、別紙資料2『原稿用紙』での提出は、長期休業中の課題としてもよい。
2 小論文1編の朗読に要する時間は、おおよそ1分40秒である。(朗読の前後に必要な
  時間を加味すると、1編=約2分。)
3 朗読する小論文の数は、9~15編が適当であるので、「導入」や「グループ討議」等に
  必要な時間を考慮して数を決める。(場合によっては、より少ない数の小論文に
  限定してもよい。)
4 「グループ討議」と別紙資料2による「課題の提出」の両方を実施することが望ましいが、
  片方だけの実施でもよい。

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 この教材を用いた授業はまだ実施していない。しかし、上記2編の【会員レポート】の際に実施していた『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業が実施されなくても、今回各小論文に付けた2枚の写真を見ることにより、書いてくれた生徒達の想いや考え・感情について参加者がイメージしやすくなっていると思われる。そのため、今回工夫した『教材』は、「いつでも誰でも簡単に使用できる教材」になっていると考える。
 また、掲載した小論文の中では、震災当時の自らの体験をふまえたうえでの教訓や、これからの自分に何ができるのか等について述べていることから、多くの参加者の共感を得ることができると考える。

 

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 今回使用した写真の多くは、岩手県復興防災部復興推進課が管理する『いわて震災津波アーカイブ~希望~』(https://iwate-archive.pref.iwate.jp/)から二次利用したものである。引用した写真以外にも、今まで見たことがなかった貴重な写真や資料がたくさんあり、震災学習や防災・減災学習、支援活動・国際交流等、多くの分野で活用できると感じた。
 その存在を知らない方も多いようなので、ぜひ、多くの方に活用していただきたいと強く思う。

● これからの期待や展望

 この『教材』の利用方法はいろいろと考えられるが、共通するのは「東日本大震災を体験した子供達の想いや考え・感情を知ることができ、知ることにより『自分事』としてどのように行動していくのかを考える場を提供できる」ことである。
 現在、「小学校高学年向け」と「小学校低学年向け」の教材を、震災当時に小学生や保育園児だった生徒の小論文(作文)を中心に選んで作成中である。また、防災・減災学習と共に日本語学習を一緒にできる外国人向けの「日本語学習用」教材を検討している。
 加えて、「幼児向け」に、生徒達が書いてくれた小論文の内容を「絵本」や「紙芝居」にできないかを検討しているが、私だけの力では難しいので、「絵本」や「紙芝居」を作成するノウハウに詳しい方からのご連絡をお待ちしている。

 

 

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。

           

【会員レポート】『東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材』 実践例③(~大学生対象の実践~)

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
活動実施日:2025年11月5日
情報提供日:2026年1月20日
連絡先:TEL. 0193-63-6448
    MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくることが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
 一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する162編の小論文の中から選んだ多様な視点の60編の小論文を『教材』(参考資料①参照)とすることで、被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生、あるいは震災を体験していない人々に引き継ぎ、新たな行動へつなげていきたいと考えている。
 今回、千葉大学園芸学部の加藤ゼミの学生(大学3・4年生、大学院修士・博士課程、計25名)を対象に、この『教材』を使用して、防災学習を実施した。
 きっかけは、NHK盛岡放送局が制作した番組(2025年5月27日に久慈翔北高校で実施した出前授業等を取材・編集)を視聴した森林火災が専門の千葉大学の加藤顕准教授から、「これから大船渡など火災があった場所で研究活動をする予定です。調査に入る前に、大学生に災害で被害に遭った方の気持ちを感じてもらいたいのと、防災の意識も高めたい」という趣旨の依頼があったことである。

● 計画や準備で気をつけたこと

 元になる資料は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園・幼稚園の年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを約600字の小論文として記載したものである。
 『教材』作成の準備で特に気を付けたのは、東日本大震災を体験した子供達の想いや考えが形として残るようにすること、そして「いつでも誰でも簡単に使用できる教材」とすることである。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(約60分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発災したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×2コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について約60分間に短縮して学生達に紹介した。

2) 加藤ゼミの学生(大学生、大学院生)による小論文(12編)の朗読(約20分間)

 今回、震災を体験した生徒達の小論文60編(参考資料①)の中から『12編』(参考資料②参照)を選び、加藤ゼミの学生に朗読してもらった(1人各1編を朗読)。
 読んでもらった12編の小論文の選定基準は、以下のⅰ)~ⅲ)の3つの観点による。
 ⅰ)できるだけ多様な視点と体験を含むこと。
 ⅱ)加藤先生から依頼された「大学生に災害で被害に遭った方の気持ちを感じてもらいたい」
   という趣旨に沿っていること。
 ⅲ)被災体験をふまえた「身近な自然環境を活用した防災・減災」に関する生徒達の提言を
   含むこと。

3) ワークショップ

 今回、1)の「授業内容の紹介」に時間がかかり、また、「マングローブの役割」と「日本の防災林」に関する内容が、加藤ゼミの学生達の研究内容に関連する部分もあったため、急遽「質疑応答」という形に変更になり、ワークショップは実施しなかった。

4) 課題の配付 5) 想いや考えの共有

 加藤ゼミにおいて専門的に「森林生態学」や「景観生態学」を学んでいる学生達には、「課題の提出」や「想いや考えの共有」は必要ないと感じ、実施しなかった。

● 実践中や、実施後の参加者の反応

 実施した内容の1)「授業内容の紹介」

 「東日本大震災」と約21年前に発災した「インド洋大津波」を比較して紹介し、2つの自然災害の共通点や相違点を比較検討したことで、防災・減災や復興、国際支援活動等について興味深く聴いてくれていることを感じた。
 また、インドネシアのマングローブ林と日本の防災林を比較しながら「自然環境を活用した防災・減災」という視点からの防災・減災について紹介することにより、「身近な自然環境」の重要性を理解してもらうことができた。
 北海道出身の学生Aさんからは、「自分の卒論研究を海岸林について研究したいと思うようになった。小笠原先生から見せて頂いたいろいろな防潮事例を拝見して、自分の研究で役立つと感じた。」という感想をいただいた。
 また、当日参加していた澤田義人千葉大学客員准教授(JAXA『宇宙航空研究開発機構』において“植生観測に特化した人工衛星の開発に携わっている”先生)からは、「人工物と自然物を組み合わせた防災などは、お聴きして大変示唆に富むものでした」、「現在開発中の衛星が皆さまの財産と生命を守る一助になればとの思いを、今日は新たにしました」等の感想を寄せて頂いた。

実施した内容の2)「小論文(12編)の朗読」

 声に出して朗読することにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の学生達に、より強く伝わったと思われる。また、被災した子供達と同じ世代の聞く側の学生達にも「自分にも起こりうる事」と捉えやすくなり、強く響いたと思われる。
 関西出身の学生Bさんからは、「東日本大震災の時に関西は全く揺れなかったので、震災が起きたこともニュースでしか分からなかった。今回参加して、自分の事として感じられて良かった。南海トラフ巨大地震が起きたらと思うと心配だ。」という感想を、福島出身の学生Cさんからは、「福島で震災に遭ったので、自分に起きたことを思い出した。自分の実家は海岸近くではなかったので、津波による影響はなかったが、震災のことは時間と共に忘れてしまうので、このような機会があって本当に良かった。南海トラフ巨大地震への備えはどうしたら良いか? と考えた。」という感想をいただいた。
 また、加藤先生からは、「生徒の書いた文章が、どれも心に響くものばかりでした」、「伝承は被災者本人でなくても、別の人が文章を読み伝えることも大事だと私は思っております」、「今日の講義でも読み伝える重要性を改めて感じております」等の感想を寄せて頂いた。
 加藤先生からの「大学生に災害で被害に遭った方の気持ちを感じてもらいたい」という依頼に応えることができたと思うと共に、被災した方の気持ちを考えない「心のない研究者にはなってほしくない」という学生への教育方針に感銘を受けた。

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 大学生を対象とする場合、専門性が高いことが予想される。今回のように「森林生態学」や「景観生態学」を専門的に学び研究している学生の場合、進路が未定の中高生むけに考えたワークショップでは物足りないだろうということを感じた。「防災・減災」や「支援活動」、あるいは「復興教育」や「国際交流」等を専門的に学び研究している学生を対象とする場合にも、同様のことが考えられる。
 そのような場合には、小論文を朗読することで「被災者の気持ち」を想い、感じてもらったうえで、その「被災者の気持ち」を専門的な研究の中にどのように落とし込むのかを話し合う形が良いと考える。

● これからの期待や展望

 この『教材』(15編×4セット=60編)の特徴は、東日本大震災当時、高校2年生から保育園・幼稚園の年長までの12学年分に相当する子供達が、高校生の時のいろいろな「想いや考え・感情」を表現したということである。そして、その小論文を若い世代が『朗読』することで、「想いや考え・感情」を共有できることである。
 東日本大震災からまもなく15年になり、震災記憶の風化が進んでいることを感じている人は多いと思われる。時の流れにより風化が進むのは仕方がない、と諦めてしまう人もいるかも知れない。しかし、津波による甚大な被害を何度も繰り返し受けてきた三陸地域で伝わる「津波てんでんこ」のように、あるいは文字としては記録されていない百十数年前に発災した大津波の記録を口承文芸として伝承してきたインドネシア・シムル島の「スモン」のように、先人の被災体験や教訓が伝わったことで助かった命がたくさんあるという事実を忘れてはいけない。
 原爆詩の『朗読』を続けている吉永小百合さんの活動や、ひめゆり平和祈念資料館等で行われている元学徒の体験を綴った手記や絵本の『朗読』は、聴く人の感情に強く訴える。
 東日本大震災の被災者である子供達の「想いや考え・感情」は、『朗読』することにより共有することができ、そしてそれは被災体験や教訓を未来へ引き継いでいくための有効な方法の一つであると考える。

 

 

 

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。