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【会員レポート】中学生・高校生向け『写真付き教材』の実践例⓶ ~東日本大震災を体験した子供達の 想い・考えを、次世代に伝える教材~

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
情報提供日:2026年9月24日
連絡先  :TEL. 0193-63-6448
      MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp 

 

準備の段階

 

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発災から15年を経過し、震災当時生まれていなかった子供達が中学校や高校に入学してくる現在、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。

● 計画や準備で気をつけたこと

 東日本大震災が発生した2011年から2021年まで、被災地域にある5つの高校(宮古、久慈東、山田、岩泉、宮古北)において、2012年12月にインドネシアのアチェ州を取材したうえで『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルで、防災・減災や復興、国際理解、環境問題等について情報を提供する授業やプリント学習を実施してきた。その中には、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の生徒達の震災時や震災復旧・復興時の想いや考えが、授業の内容をふまえた600字の小論文という形で多数記録されている。
 これまで、多様な視点の小論文を現役の高校生に『朗読』してもらうことにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達はもちろん聴く側の生徒達により強く伝わる授業を実践してきた(2025年9月16日【会員レポート】と2025年12月3日【会員レポート】、2編を参照)。また、それらの実践をふまえて、いくつかの点を改良した『教材』を作成した(2026年4月27日【会員レポート】を参照)。
 今回、今年(令和8年)5月26日に岩手県立久慈翔北高等学校において実施した震災学習(2026年7月17日【会員レポート】中学生・高校生向け『写真付き教材』の実践例①、参照)に引き続き、現在講師として理科の授業を行っている宮古高校定時制の4年生(13名)と1年生(7名)を対象に、理科の授業(4年生は『地学基礎』、1年生は『科学と人間生活』の地学分野)内で、「中学生・高校生向け『写真付き教材』」を使用した。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(約50分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発生したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×2コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について短縮して参加生徒達に紹介した。そのうえで、上記5つの被災地域の高校において授業内容の1つとして「600字の小論文」の課題を提出してもらったこと、そしてその中から今回10編を選んで私が朗読することを説明した。(定時制の生徒達の中には、人前で朗読することが難しい生徒もいるので、今回は教員が朗読することとした。)

 

2) 教員による小論文(10編)の朗読(約20分間)

 今回、震災を体験した生徒達の小論文10編(参考資料①参照)について、私(教員)が朗読した。
 10編の小論文の選定は、できるだけ多様な視点と体験を含むことや、実際の体験から得られた教訓や提言を含むこと、等を考慮した(平成23~26年度の宮古高校全日制の生徒が書いた6編を含む)。
 朗読する際に気を付けたことは、間を取り、ゆっくりと気持ちを込めて読むことである。

 

3) ワークショップ

 教員が朗読した10編の中から1編を各自選び、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?」と「B:選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?」、および「感想」を、別紙資料1に書き出してもらった。
 本来であれば、その用紙をもとに数人のグループごとに、別紙資料2「グループ討議資料」を使いながら、「これからあなたができることは何ですか?」について話し合いをもつのであるが、定時制の生徒達の中には、人前で自分の意見を出すのが苦手な生徒もいるので、ワークショップは実施しなかった。

 

4) 課題の配付

 授業終了時に、別紙資料3「原稿用紙」を配付し、朗読した10編の小論文の中から各自が選んだ1編について、別紙資料1を参考にして「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?(160字以上~200字以内)」と「B:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?(260字以上~300字以内)」について書いてもらい、時間内に書き終えた生徒についてはその場で、それ以外の生徒には後日提出してもらった。

 

5) 想いや考えの共有

 後日、提出された別紙資料3「原稿用紙」を編集して、宮古高校文化祭の『定時制学習発表』で展示した(選んだ小論文と一緒に掲載したプリントを作成。ただし、名前については「Aさん、Bさん、・・・」と表記)。 
(それらのプリントの一部を、参考資料②『想いや考えの共有』(4年生7名、1年生3名、計10名分)として掲載。) 

 

● 実施中や実施後の参加者の反応

実施した内容の1)「授業内容の紹介」

 今年(令和8年)4月20日16:52頃に発生した三陸沖を震源とする地震・津波(宮古市で震度5弱・津波の高さ40㎝)の時、定時制の生徒達は授業中であった。大きな揺れや緊急地震速報が鳴り響く中で机の下に隠れ、揺れがおさまった後、津波に備えて校舎の4階に避難した。
 生徒達は、そのような体験をしたり、居住地が東日本大震災の被災地域であることなどから、遠い国の話であるインド洋大津波や自分が生まれた頃でほとんど記憶がない東日本大震災の話について、とても意欲的に聴いてくれていることを感じることができた。

 

実施した内容の2)「小論文(10編)の朗読」

 東日本大震災当時、保育所年長から高校2年生だった子供達が高校生の時に書いた小論文を、書いた子供達と同じ年頃の生徒達が「朗読」をするのが理想である。しかし今回のように、それが難しい状況もあると思われる。そのような場合には教員による「朗読」や、生徒による黙読でも、小論文の内容をふまえた上での生徒達の想いや考えを表現することは十分可能だと考える。
 この教材に「朗読」を取り入れる前には、長期休業中の理科の課題として15編をまとめた冊子を配布し、その中の1編を選び別紙資料3「原稿用紙」を休み明けに提出する形をとっていた。「朗読」がないその形でも、震災や防災に関する生徒達の想いや考えを引き出すことは十分可能であった。

 

実施した内容の3)「ワークショップ」

 グループ討議がなくても、今回のように「実施した内容の4)課題の配付」と「実施した内容の5)想いや考えの共有」を実施することは可能である。
「朗読」と「グループ討議」、および「想いや考えの共有」の3つを実施することが望ましいが、「朗読」と「グループ討議」の2つ、もしくは「朗読」と「想いや考えの共有」の2つを実施することでも同じように防災学習・震災学習の目標に達することは可能であると考える。

 

実施した内容の4)「課題の配付」、および実施した内容の5)「想いや考えの共有」

 参考資料②『想いや考えの共有』にあるように(一例を以下に掲載)、被災者の視点から震災を理解し、共感を深め、「自分事」として考えることができたと思う。
 

『想いや考えの共有』の一例
 (令和8年度宮古高校定時制4年 Eさん) 

A:「あなたが共感したのはどういう所ですか?」
 「今、生きているということが、どれだけ恵まれているのか」。当時3歳だった私は、3.11のことを全く覚えておらず、母から当時のことを教えてもらった。私が今こうして生きていられるのは、あの時私をおんぶして必死に逃げてくれた祖父や家族のおかげだ。命がけで守ってもらった私だからこそ、生きていることのありがたさを深く感じる。当たり前の日常の尊さを忘れず、一日一日を大切にしたい。

B:「選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?」
 今の私にできることは、この命を大切に全うすることだ。まずは、一日一日を全力で生き、「明日やろう」と後回しにせず、目の前のことに一生懸命取り組む。困難にぶつかった時は、私をおんぶしてくれた祖父の姿や、当時の話を思い出し、それを糧にして頑張る。
 私はこの小論文を読み、命の重さと当たり前の日常の尊さを感じた。だからこそ、震災のことを次の世代へしっかり語り継ぎ、「自分の命を守るために、どのように動くか」を、みんなで考えていきたい。当たり前の毎日が、どんなに幸せで尊いかを伝えながら、震災の教訓を未来へしっかりと繋いでいきたい。

選んだ小論文
05)【震災当時、大槌町在住・吉里吉里中学校2年生】 平成26年度・宮古高校3年 Kさん

『3.11から四年目の今、私ができること』

 東日本大震災から今日まで、様々な節目で「今の自分にできること」を考えました。その末に辿り着いたのは、「今を一生懸命生きる」ということです。具体性がない、と言われるかもしれません。しかし、私はこれが「今の自分にできること」であり、「やらなければいけないこと」だと思います。
 震災で私たちは多くのものを失いました。未だに戻ってこないものも沢山あります。「明日やろう」と思っていたことができなくなりました。「当たり前だ」と思っていたことの大切さに気がつきました。今、生きているということが、どれだけ恵まれているのかを感じました。それゆえ、私たちは何をするにせよ、この一瞬一瞬を全力で生きていかなければならないのです。震災により命を落としてしまった方々の分も、有意義な人生を送らなければならないのです。
 私たちが今を懸命に生きることは、将来の社会貢献にもつながります。震災での経験を活かし、未来を創り上げることができるのは私たちです。しかし、「一生懸命」というのは決して簡単なことではありません。辛いときも疲れてしまうときもあると思います。そういう時こそ、東日本大震災を振り返り、忘れないようにすることが大切だと思います。
 震災前、当日、直後、全てを知っている私たちだからこそ創り上げることのできる未来を、一生懸命築いていきたいと思います。復興に役立つ人間に成長していきたいです。

 この教材を使い、震災を体験した子供たちの生の声や感情・教訓を後世に伝えることで、時間の経過とともに薄れゆく震災の記憶を定着させることは可能であると考える。また、生徒達が自然災害に対する防災・減災について自ら考え行動しようとする力を育むことが可能であると考える。

 

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 小論文10編について、関連するカラー写真を各編に2枚ずつ付けたが、参加する生徒の人数分(10編=10枚)をカラー印刷するのは、印刷費用の点で難しい、ということを感じた。写真が白黒印刷でも文字だけよりはイメージを想像しやすいが、カラー印刷の方がよりイメージしやすいのは確かであるので、今後検討していきたい。
 また、旧教材と比較して、活字を大きくしたこと、加えて地名や複数の読み方がある漢字などに「ふりがな」を付けたことで黙読しやすくなったと思われる。さらに、教員による朗読があったので内容を理解しやすくなったと思われる。
 各小論文に写真を2枚ずつ付けたが、「実施した内容の1)「授業内容の紹介」」で使わなかった写真も使用したので、写真の解説を付けた「教材」を作成したいと考えている。

● これからの期待や展望

 東日本大震災から15年が過ぎ、震災記憶の風化が進んでいることを感じている人は多いと思われる。時の流れにより風化が進むのは仕方がない、と諦めてしまう人もいるかも知れない。しかし、津波による甚大な被害を何度も繰り返し受けてきた三陸地域で伝わる「津波てんでんこ」のように、あるいは文字としては記録されていない百数十年前に発災した大津波の記録を口承文芸として伝承してきたインドネシア・シムル島の「スモン」のように、先人の被災体験や教訓が伝わったことで助かった命がたくさんあるという事実を忘れてはいけない。
 原爆詩の『朗読』を続けている吉永小百合さんの活動や、ひめゆり平和祈念資料館等で行われている元学徒の体験を綴った手記や絵本の『朗読』は、聴く人の感情に強く訴える。
 東日本大震災の被災者である子供達の「想いや考え・感情」は、『朗読』することにより共有することができ、そしてそれは被災体験や教訓を未来へ引き継いでいくための有効な方法の一つであると考える。

● 実践中の写真