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【会員レポート】中学生・高校生向け『写真付き教材』の実践例① ~東日本大震災を体験した子供達の想い・考えを、次世代に伝える教材~

 

【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。

 


 

情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
活動実施日:2026年5月26日
情報提供日:2026年7月8日
連絡先  :TEL. 0193-63-6448 
      MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp 

 

準備の段階

● 実践・実施のきっかけや経緯

 東日本大震災発災から15年を経過し、震災当時生まれていなかった子供達が中学校や高校に入学してくる現在、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。

● 計画や準備で気をつけたこと

 東日本大震災が発生した2011年から2021年まで、被災地域にある5つの高校(宮古、久慈東、山田、岩泉、宮古北)において、2012年12月にインドネシアのアチェ州を取材したうえで『インド洋大津波と東日本大震災の比較』というタイトルで、防災・減災や復興、国際理解、環境問題等について情報を提供する授業やプリント学習を実施してきた。その中には、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の生徒達の震災時や震災復旧・復興時の想いや考えが、授業の内容をふまえた600字の小論文という形で多数記録されている。
 これまで、多様な視点の小論文を現役の高校生に『朗読』してもらうことにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の生徒達はもちろん聴く側の生徒達により強く伝わる授業を実践してきた2025年9月16日【会員レポート】2025年12月3日【会員レポート】、2編を参照)。また、それらの実践をふまえて、いくつかの点を改良した『教材』を作成した2026年4月27日【会員レポート】を参照)。
 今回、昨年(令和7年)5月27日にも出前授業(旧教材を使用)を実施した岩手県立久慈翔北高等学校において、介護福祉系列2年生25名と岩手県立北桜高等学校介護福祉系列2年生11名、計36名を対象に、「交流学習スクール」、および「いわての復興教育スクール」の一環として行われた震災学習(タイトル:「東日本大震災を経験した高校生たちの思いを継ぐ」)で、初めて「中学生・高校生向け『写真付き教材』」を使用した。

 

実践の段階

 

● 実施した内容

1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(約45分間)

 東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発生したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×2コマの授業を実施している。
 今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について短縮して参加生徒達に紹介した。そのうえで、上記5つの被災地域の高校において授業内容の1つとして「600字の小論文」の課題を提出してもらったこと、そしてその中から今回12編を選んで生徒達に朗読してもらうことを説明した。

2) 久慈翔北高校と北桜高校の生徒(計12名)による小論文(12編)の朗読(約25分間)

 今回、震災を体験した生徒達の小論文『12編』参考資料①参照)について、朗読してもらった(1人各1編を朗読)。読み手の生徒は、二校の指導者にその場で指名してもらった
 朗読してもらった12編の小論文の選定は、できるだけ多様な視点と体験を含むことや、実際の体験から得られた教訓や提言を含むこと、等を考慮した(久慈翔北高校の前身である久慈東高校の生徒が書いた2編を含む)。

3) ワークショップ

 朗読してもらった12編の中から1編を各自選び、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?」と「B:選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?」、および「感想」を、別紙資料①に書き出してもらった。
 その用紙をもとに、6~7人のグループごとに、別紙資料②(「グループ討議資料」)を使いながら、「これからあなたができることは何ですか?」について話し合う予定であったが、予定時間を過ぎてしまったのでワークショップは実施せず、次の4)課題の配付だけを授業終了後に実施してもらった。

4) 課題の配付

 授業終了後に、別紙資料③(「原稿用紙」)を配付し、朗読した12編の小論文の中から各自が選んだ1編について、「A:あなたが共感したのは、どういう所ですか?(160字以上~200字以内)」と「B:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることは何ですか?(260字以上~300字以内)」について書いてもらい、後日提出してもらった。

5) 想いや考えの共有

 後日、提出された小論文のうちのいくつかを、選んだ小論文と一緒に掲載したプリントを作成・配付し、参加生徒全員で想いや考えを共有した(参考資料②『想いや考えの共有』(10名分)参照)。

 

● 実施中や実施後の参加者の反応

実施した内容の1)「授業内容の紹介」

 今年(令和8年)4月20日に発生した三陸沖を震源とする地震・津波(久慈市で震度4・津波の高さ80㎝)の時、久慈市指定緊急避難場所および指定避難所に指定されている久慈翔北高校には、当時約400名の一般市民が避難してきたそうである。その際に、教職員や介護福祉系列の生徒をはじめ多数の生徒たちも協力して対応したというお話を聞いていた。
 そのような体験をしたり、防災や介護福祉について強い意識を持っている生徒達なので、遠い国の話であるインド洋大津波や自分が生まれた頃でほとんど記憶がない東日本大震災の話について、とても意欲的に聴いてくれていることを感じることができた。

実施した内容の2)「小論文(12編)の朗読」

 その場で各校の先生から指名されての朗読であったが、誰一人嫌な顔をせずに立派に朗読してくれた。聞き手の生徒達も、配付された小論文の冊子を見ながら真剣に聴いている姿が印象的であった。
 久慈翔北高校の先生からは、「朗読することで伝わることが多くあることも再確認できました。震災をほとんど知らない生徒たちも、当時の高校生の小論文から感じることが多くあったようです」というお話を、北桜高校の先生からは、「読む(黙読)するだけでは伝わらないことが、生徒が朗読することでよく伝わる」というお話をいただいた。

実施した内容の3)「ワークショップ」

 実施した内容の1)「授業内容の紹介」に時間をかけてしまい、グループ討議は実施できなかった。今後は、紹介するスライド写真を最初から少なくして実施したい。
ただし、グループ討議がなくても、今回のように「実施した内容の4)課題の配付」と「実施した内容の5)想いや考えの共有」を実施することは可能である。
 「朗読」と「グループ討議」、および「想いや考えの共有」の3つを実施することが望ましいが、「朗読」と「グループ討議」の2つ、もしくは「朗読」と「想いや考えの共有」の2つを実施することでも同じように防災学習・震災学習の目標に達することは可能であると考える。

実施した内容の5)想いや考えの共有

 参考資料②『想いや考えの共有』(10名分)にあるように、被災者の視点から震災を理解し、共感を深め、「自分事」として考えることができたと思う。
 この教材を使い、震災を体験した子供たちの生の声や感情・教訓を後世に伝えることで、時間の経過とともに薄れゆく震災の記憶を定着させることは可能であると考える。また、生徒達が自然災害に対する防災・減災について自ら考え行動しようとする力を育むことが可能であると考える。

 

継続の段階

 

● 課題に感じたこと

 小論文12編について、関連するカラー写真を各編に2枚ずつ付けたが、参加する生徒の人数分(12編=12枚)をカラー印刷するのは、印刷費用の点で難しい、ということを感じた。今回は、冊子の小論文と写真は白黒印刷にし、12編の各小論文に掲載した2枚のカラー写真をスライド写真にしてスクリーンに映しながら朗読してもらったが、生徒達は冊子を見る方に集中し、スクリーンはあまり見ていなかった。写真が白黒印刷でも文字だけよりはイメージを想像しやすいが、カラー印刷の方がよりイメージしやすいのは確かであるので、今後検討していきたい。
 また、旧教材と比較して、活字を大きくしたこと、加えて地名や複数の読み方がある漢字などに「ふりがな」を付けたことで『朗読』しやすくなったと思われるが、生徒によっては「ふりがな」が付いていない漢字でひっかかっている場面もあった。現在作成中の「小学校高学年向け『写真付き教材』」のように、全ての漢字に「ふりがな」を付けることも検討していきたい。

● これからの期待や展望

 東日本大震災から15年が過ぎ、震災記憶の風化が進んでいることを感じている人は多いと思われる。時の流れにより風化が進むのは仕方がない、と諦めてしまう人もいるかも知れない。しかし、津波による甚大な被害を何度も繰り返し受けてきた三陸地域で伝わる「津波てんでんこ」のように、あるいは文字としては記録されていない百数十年前に発災した大津波の記録を口承文芸として伝承してきたインドネシア・シムル島の「スモン」のように、先人の被災体験や教訓が伝わったことで助かった命がたくさんあるという事実を忘れてはいけない。
 原爆詩の『朗読』を続けている吉永小百合さんの活動や、ひめゆり平和祈念資料館等で行われている元学徒の体験を綴った手記や絵本の『朗読』は、聴く人の感情に強く訴える。
 東日本大震災の被災者である子供達の「想いや考え・感情」は、『朗読』することにより共有することができ、そしてそれは被災体験や教訓を未来へ引き継いでいくための有効な方法の一つであると考える。

 

 

● 実践中の写真

※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。