【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。
情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古高等学校定時制 講師) 会員
活動実施日:2025年11月5日
情報提供日:2026年1月20日
連絡先:TEL. 0193-63-6448
MAIL. ptf60-j-ogasawara(アットマーク)iwate-ed.jp
準備の段階
● 実践・実施のきっかけや経緯
東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくることが予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。
一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する162編の小論文の中から選んだ多様な視点の60編の小論文を『教材』(参考資料①参照)とすることで、被災地の生徒達の想いや考えを現在や未来の中学生・高校生、あるいは震災を体験していない人々に引き継ぎ、新たな行動へつなげていきたいと考えている。
今回、千葉大学園芸学部の加藤ゼミの学生(大学3・4年生、大学院修士・博士課程、計25名)を対象に、この『教材』を使用して、防災学習を実施した。
きっかけは、NHK盛岡放送局が制作した番組(2025年5月27日に久慈翔北高校で実施した出前授業等を取材・編集)を視聴した森林火災が専門の千葉大学の加藤顕准教授から、「これから大船渡など火災があった場所で研究活動をする予定です。調査に入る前に、大学生に災害で被害に遭った方の気持ちを感じてもらいたいのと、防災の意識も高めたい」という趣旨の依頼があったことである。
● 計画や準備で気をつけたこと
元になる資料は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園・幼稚園の年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを約600字の小論文として記載したものである。
『教材』作成の準備で特に気を付けたのは、東日本大震災を体験した子供達の想いや考えが形として残るようにすること、そして「いつでも誰でも簡単に使用できる教材」とすることである。
実践の段階
● 実施した内容
1) 『インド洋大津波と東日本大震災の比較』の授業内容の紹介(約60分間)
東日本大震災の翌年(2012年)に、JICA東北主催の教師海外研修でインドネシア・アチェ州を訪れる機会を得た。当地は、2004年12月26日に発災したインド洋大津波(スマトラ島沖地震)の被災地で、アチェ州だけで約16万人が亡くなっている。この研修で得た知見や帰国後に調査した日本における「自然環境を活用した防災・減災」などをまとめ、スライドや動画上映を中心とした50分×2コマの授業を実施している。
今回、その授業内容(「アチェの状況」や「マングローブの役割」「日本の防災林」等)について約60分間に短縮して学生達に紹介した。
2) 加藤ゼミの学生(大学生、大学院生)による小論文(12編)の朗読(約20分間)
今回、震災を体験した生徒達の小論文60編(参考資料①)の中から『12編』(参考資料②参照)を選び、加藤ゼミの学生に朗読してもらった(1人各1編を朗読)。
読んでもらった12編の小論文の選定基準は、以下のⅰ)~ⅲ)の3つの観点による。
ⅰ)できるだけ多様な視点と体験を含むこと。
ⅱ)加藤先生から依頼された「大学生に災害で被害に遭った方の気持ちを感じてもらいたい」
という趣旨に沿っていること。
ⅲ)被災体験をふまえた「身近な自然環境を活用した防災・減災」に関する生徒達の提言を
含むこと。
3) ワークショップ
今回、1)の「授業内容の紹介」に時間がかかり、また、「マングローブの役割」と「日本の防災林」に関する内容が、加藤ゼミの学生達の研究内容に関連する部分もあったため、急遽「質疑応答」という形に変更になり、ワークショップは実施しなかった。
4) 課題の配付 5) 想いや考えの共有
加藤ゼミにおいて専門的に「森林生態学」や「景観生態学」を学んでいる学生達には、「課題の提出」や「想いや考えの共有」は必要ないと感じ、実施しなかった。
● 実践中や、実施後の参加者の反応
実施した内容の1)「授業内容の紹介」
「東日本大震災」と約21年前に発災した「インド洋大津波」を比較して紹介し、2つの自然災害の共通点や相違点を比較検討したことで、防災・減災や復興、国際支援活動等について興味深く聴いてくれていることを感じた。
また、インドネシアのマングローブ林と日本の防災林を比較しながら「自然環境を活用した防災・減災」という視点からの防災・減災について紹介することにより、「身近な自然環境」の重要性を理解してもらうことができた。
北海道出身の学生Aさんからは、「自分の卒論研究を海岸林について研究したいと思うようになった。小笠原先生から見せて頂いたいろいろな防潮事例を拝見して、自分の研究で役立つと感じた。」という感想をいただいた。
また、当日参加していた澤田義人千葉大学客員准教授(JAXA『宇宙航空研究開発機構』において“植生観測に特化した人工衛星の開発に携わっている”先生)からは、「人工物と自然物を組み合わせた防災などは、お聴きして大変示唆に富むものでした」、「現在開発中の衛星が皆さまの財産と生命を守る一助になればとの思いを、今日は新たにしました」等の感想を寄せて頂いた。
実施した内容の2)「小論文(12編)の朗読」
声に出して朗読することにより、被災した当時の子供達の想いや考え、そして感情が、読み手の学生達に、より強く伝わったと思われる。また、被災した子供達と同じ世代の聞く側の学生達にも「自分にも起こりうる事」と捉えやすくなり、強く響いたと思われる。
関西出身の学生Bさんからは、「東日本大震災の時に関西は全く揺れなかったので、震災が起きたこともニュースでしか分からなかった。今回参加して、自分の事として感じられて良かった。南海トラフ巨大地震が起きたらと思うと心配だ。」という感想を、福島出身の学生Cさんからは、「福島で震災に遭ったので、自分に起きたことを思い出した。自分の実家は海岸近くではなかったので、津波による影響はなかったが、震災のことは時間と共に忘れてしまうので、このような機会があって本当に良かった。南海トラフ巨大地震への備えはどうしたら良いか? と考えた。」という感想をいただいた。
また、加藤先生からは、「生徒の書いた文章が、どれも心に響くものばかりでした」、「伝承は被災者本人でなくても、別の人が文章を読み伝えることも大事だと私は思っております」、「今日の講義でも読み伝える重要性を改めて感じております」等の感想を寄せて頂いた。
加藤先生からの「大学生に災害で被害に遭った方の気持ちを感じてもらいたい」という依頼に応えることができたと思うと共に、被災した方の気持ちを考えない「心のない研究者にはなってほしくない」という学生への教育方針に感銘を受けた。
継続の段階
● 課題に感じたこと
大学生を対象とする場合、専門性が高いことが予想される。今回のように「森林生態学」や「景観生態学」を専門的に学び研究している学生の場合、進路が未定の中高生むけに考えたワークショップでは物足りないだろうということを感じた。「防災・減災」や「支援活動」、あるいは「復興教育」や「国際交流」等を専門的に学び研究している学生を対象とする場合にも、同様のことが考えられる。
そのような場合には、小論文を朗読することで「被災者の気持ち」を想い、感じてもらったうえで、その「被災者の気持ち」を専門的な研究の中にどのように落とし込むのかを話し合う形が良いと考える。
● これからの期待や展望
この『教材』(15編×4セット=60編)の特徴は、東日本大震災当時、高校2年生から保育園・幼稚園の年長までの12学年分に相当する子供達が、高校生の時のいろいろな「想いや考え・感情」を表現したということである。そして、その小論文を若い世代が『朗読』することで、「想いや考え・感情」を共有できることである。
東日本大震災からまもなく15年になり、震災記憶の風化が進んでいることを感じている人は多いと思われる。時の流れにより風化が進むのは仕方がない、と諦めてしまう人もいるかも知れない。しかし、津波による甚大な被害を何度も繰り返し受けてきた三陸地域で伝わる「津波てんでんこ」のように、あるいは文字としては記録されていない百十数年前に発災した大津波の記録を口承文芸として伝承してきたインドネシア・シムル島の「スモン」のように、先人の被災体験や教訓が伝わったことで助かった命がたくさんあるという事実を忘れてはいけない。
原爆詩の『朗読』を続けている吉永小百合さんの活動や、ひめゆり平和祈念資料館等で行われている元学徒の体験を綴った手記や絵本の『朗読』は、聴く人の感情に強く訴える。
東日本大震災の被災者である子供達の「想いや考え・感情」は、『朗読』することにより共有することができ、そしてそれは被災体験や教訓を未来へ引き継いでいくための有効な方法の一つであると考える。
● 実践中の写真
※写真の掲載についてご本人の許可をいただいています。




















